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合宿覚え書き

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

6月にT&Iの合宿を1回、8月に入って英語暗唱コンテストの合宿を2回行なった。基本的な流れは同じなので、記録として残しておく。

根っこにあるのは、「学びのシナジー」というか、1人では越えられない壁を参加者が力をあわせて越えること。そして、最近の学生がやりたがらない、濃密な交わりというか、人間関係を体験させること。

<T&I>
*事前課題
レポートを課した。A41枚程度。

T&Iは、通訳のメイントピックがITで、それに関していくつかのサブトピックが出ていたので、参加者を3〜4人のグループに分け、グループ1つにつき1つのサブトピックを割り当ててレポートを共同作成させた。同時に重要語句に関し、日本語と英語の両方の訳を調べて単語リストを作らせ、レポートの最後に添付させる。

さらに、グループの中で「サブトピックを参加者全員の前で3分ほどかけてプレゼンする役」「通訳練習のときに、サブトピックについて1分半ほど日本語で語る役」「通訳練習のときにサブトピックについて1分半ほど英語で語る役」という役割を決め、準備をしてくるように指導。合宿当日を迎える。

*合宿1日目
八王子セミナーハウスに11時集合。提出されたレポートを全員分コピー。その間学生はラウンジでグループごとに別れ、プレゼンなどの打ち合わせをする。

12時昼食。13時セミナー室に移動。日本語でのプレゼン開始。グループごとに前に出て行ない、残りの学生には「終わったら必ず一つ質問をしようと思って聞くように」と言って、実際に質問させる。学生の質問に続いて、調べの甘いところは僕がビシバシ突っ込む。

15時ごろに、チェックイン。セミナー室を移動(この時は、セミナー室付きの宿泊施設、というか、セミナー室の周りに寝室が配置されているという実に面白い宿泊施設を借りられた)。新しいセミナー室でティーブレーク。買ってきたチョコなどを食べさせる。なるほど、学生さんはああいうお菓子が好みなのだな。ジェネレーション・ギャップがある上に、女子学生が多いので、そのあたりは手探り。

宿泊できずに帰宅する学生が何人かいたので、16時過ぎでプレゼンを中止し、そういう学生がいるグループを中心に通訳練習に入る。

17時45分から夕食。19時15分頃からプレゼンの続きを終わらせて、通訳練習再開。通訳コンテストに出場する学生だけではなく、早退する学生や普段すぐに白旗を掲げる学生、何となく通訳をなめてるかなーと思う学生なども指名してやらせてみる。

(サブトピックごとではあるが)徹底的に背景を調べ上げ、しかも自分が担当しているサブトピック以外についてもプレゼンを受けて背景知識を強化されているので、自分でも意外なほど内容は「分かった」ようだ。普段の授業ではそのインプットの段階で上手く行かないこともあるので、事前準備の大切さを知る良い機会だったろう。

しかしそれをアウトプットする、すなわち「通訳する」のはまったく別物だ。みんな脂汗をかきながら必死に訳出していた。代表としてコンテストに参加する学生以外からは、今ひとつリアクションが薄かったりしたのだが、これで「みんなで頑張って、通訳という壁を突破する」という意味が少しは分かったのではないか。終わったあとに「あれほど大変だとは思わなかった。みんなで協力する意味が分かった。非常に勉強になった」という反応が相次いだ。はっはっは。だから普段から言ってるじゃん。

21時半頃に終了。シャワーを浴びて再集合して、懇親会をやることにする。学生たちが頑張っていたので、代表にお金を渡して、ロビーで売っているアイスをご馳走した。帰宅する女子学生を、最寄のバス停まで送るように男子学生に行っておいたのだが、サッカーのワールドカップを見ようとラウンジのテレビの前に殺到しているらしい。まったくもう、当てにならんナイトどもだ。この時間に、暗いバス停に女性が1人で立っているのは不用心だろうに。仕方がないので僕がバス停まで送った。

その後入浴、集合、3時過ぎまでワイワイ過ごす。飲んだり食べたり遊んだり、さらにおしゃべりしたり相談したり泣いたり笑ったりして就寝。普段、ちょっと斜に構えて格好つけているような子も、素顔をチラリと見せていたようで、よしよし、と思う。愛い奴らよのう。

*合宿2日目
7時45分から朝食。9時から通訳練習。10時にセミナー室を移動(宿泊施設は10時チェックアウトのため)。11時まで通訳練習。

11時にセミナー室を出て、ロビーでチェックアウトの手続きをして、全員で記念写真。修了。

<英語暗唱>(2回目の合宿について記述)
*事前課題
レポートを課した。A41枚程度。

学生をスピーチ(5種類ある)ごとに分けてグループを作り、それぞれ「スピーカーの人生」「スピーチの背景」「スピーカーが所属する組織の特徴」「スピーカーへの批判」など、グループの人数分のテーマを提示し、グループ内で連絡を取り合わせて誰がどれを担当するか決めさせる。当日はグループごとに前に出てプレゼンをすると伝えておいた。

2回行なった暗唱合宿のうち、特に2回目は1年生が多く、提出されたレポートにいくつか出来の悪いものがあったので、再提出を命じる。1人だけだったが、剽窃があった。しかも、どうせなら学術的なサイトからコピーすれば良いのに、ニューヨーク在住の自称「ジャーナリスト」の「ブログ」からのコピペ。

(「ジャーナリスト」氏には失礼だが)何だか自己陶酔型の、あまり1年生が書きそうにない文章で、しかも聞いたことのない用語があったので疑問を持った。グーグルで調べたところ、そのブログがトップに出てきたのだった。いかんぞなもし。当然注意をくれた上で、書き直し……でも、再提出されたレポートも出来が悪かった。うーむ、どうしてくれようか。

T&Iの学生は、すでに1回先輩と組んでレポートを書いている分、なかなか良く書けていたものが多かった。もちろん「親の欲目」もあるのだが。

*合宿1日目
午前中にNHKのシフトが入っていたので、終わったあとダッシュで駆けつける。13時開始。資料をコピーして、その間スピーチごとに集まって、プレゼンの準備をさせた。

コピーも終わって、セミナー室に集合。自分の担当するスピーチだけではなく、すべてのスピーチから学ぶこと。そのために、人生の指針となるような内容を含んだ、上質なスピーチばかり選んであることを伝える。さらに「音読」と「朗読」の違いを確認した。

13時半から、僕が参加している朗読のセミナーで習った日本語の

声練習を行なう。非常にユニークな方法で、発声練習としてもとても有効なだけでなく、気恥ずかしさなどのメンタルブロックを打破するにも良いやり方だと思う。

セミナーの授業があるたびにメモしていたステップの通りにやったのだが、やはり授業を受けるのとやるのとでは違い、授業準備の段階から「あれ?これはどういう意味があってやるんだったっけ」ということがいくつかあった。来学期のセミナーのときに、K先生に確認してみよう。最後に茨木のり子の詩を朗読させ、グループに分けてミニ朗読会を行なわせる。みんなそれぞれ良かった。

同じ詩を朗読しても、人によってまったく違ってくるが、それで良いのだ。通訳も、英語暗唱も、「写真」ではなくて「絵画」なのだ、と伝える。例えばみんなで神社に行って、写生大会を開いたとする。写真ならば、大体同じアングルから撮れば、大体同じような写真が出来る。重ねてみれば、かなりピッタリと重なるだろう。

でも絵画はちがう。同じ社を描いても、人によって着目するところが違うし、それをどう表現するかも違うので、出来上がった絵は十人十色のはずだ。それでいい。というか、そうでなくてはならない。

暗唱コンテストもそれと同じで、単にCDをコピーするだけならば、やっていることはオウムや九官鳥と同じ。だからこそスピーチについてしっかり調べて、スピーカーのメッセージをしっかりくみ取り、それを自分なりのやり方で聞き手に伝えようと努力しなくてはならない。つまり、話すスピードなど、細部は必ずしもオリジナル通りでなくていい。というか、オリジナルを単にコピーしようとしてはいけないのだ。

自分がスピーチをどう解釈(もちろん自分勝手な解釈や誤読があってはいけない)し、どう再表現(これも独りよがりではなく、英語での話し方の基本ルールにしっかり則ったもの)するかにエネルギーを注ぐべき……というようなことを強調した。

その後、プレゼン。調べのあまいレポートが多かったので、ビシバシ突っ込む。質問もさせる。居眠りする連中が多いかなあと思っていたのだが、感心なことにみんなしっかり起きていた。例の剽窃ガールが、実に熱心に取り組んでいたので、やはり人間をその人が生み出したものだけで評価してはいけないな、と反省した。3時半過ぎにちょっとブレイク。さらにプレゼン。全員分のプレゼンが終わった時点で18時。夕食だ。

夕食をとり終わって自室で休憩しようかと思って本部棟を出ると、学生3人がバドミントンをやっている。「先生もやりませんかー」と言われたので「えー、全然上手くないけど、良いの?」「良いです、良いです。これで2対2」などというやり取りがあって、バドミントンをやることになった。暑いのを除けば、腹ごなしにもなって楽しい。結局19時ごろまでシャトルを追っていた。

19時半から練習再開。まずは英語の発音練習。1〜10、A〜Zまでの発音を行ない、特に子音に注意するように言った。続いて、スピーチの内容が分からない点を質問させ、それに回答する。自分の担当するスピーチ以外からも質問をさせる。グループによっては全体的に準備が不十分なので、他のグループからの質問が内容の理解を進める上で効果的だった。

その後シャドウイング。自分の担当するスピーチ以外もシャドウイングを行なう。発音や意味の分からない単語には、当座の手がかりとしてカタカナで読み仮名を振るように伝えた。その後音読。明日は合宿の締めくくりとして、全員の前でスピーチを朗読してもらう旨を伝えていると、暗唱コンテストの運営委員長のT先生が差し入れを持ってやってきてくださった。ソフトドリンクには1年生が、ビールには数少ない上級生(と僕)が歓声をあげる。ありがとうございました。

21時半で終了して、入浴させる。都合で帰らなくてはいけない男子学生のスピーチを聞いて、いくつかアドバイスをして帰した後、T先生とあれこれお話した。明日の最後の朗読の時に、もう一度いらっしゃるとのこと。それは嬉しい。ビデオカメラをお借りして、あれこれ撮影することにした。

22時半過ぎから懇親会。今回も盛り上がったが、いかんせん仕事が続いてロクに寝てなかったので、眠い眠い。2時ごろにウツラウツラしてしまう。2時半頃にお開きにして自室に戻り、倒れるように寝る。

*合宿2日目
8時から朝食なのだが、いったん中断して松下館の屋上に集まり、セミナーハウスの方が鐘を鳴らす中、8時15分から広島の原爆犠牲者に黙祷。続いて広島市長のスピーチをラジオで聞く。課題スピーチの中にはオバマの「核なき世界」スピーチもあったので、学生たちにとっては良い経験になったと思う。いろいろなことを考える機会にして欲しい。その後食堂に戻って朝食の続き。「コーヒーに砂糖を入れないと、苦くて飲めないんです」という男子学生がいて、何だかおかしかった。小学生か、君は。

9時から練習開始。シャドウイングをしながら、途中で度々CDを止めて、内容について細かい説明を入れる。その後、シャドウイング。今度は自分の担当するスピーチだけをシャドウイングして、それ以外の時は担当スピーチを音読するように指示した。その間、セミナー室から学生を1人1人呼び出して、各自のスピーチの第1段落を朗読させてワンポイントアドバイス。みんな真剣だ。セミナー室でもCDの再生が終わると、誰かがかけ直しているようで、ずっと再生が続いている。朗読の声も朗々とドア越しに朗々と響いていた。

1回目の合宿でも、何も言わないのに廊下でブツブツ朗読していたり、朝に男部屋のドアが開いていたので声をかけたら、みんなそれぞれシャドウイングやら朗読やらをやっていて感動したことがあった。自分から学ぶ。それさえ出来れば、教育の8割は成功したと言っていい。希望者が集まる合宿だから、そういう現象がおきやすい側面はあるのだろうが、それでも大学時代の自分を思い出すと「本当によくやっているなあ」と思う。

12時から昼食。13時から、英語の発音練習をウォーミングアップがわりにやった後、いよいよ朗読会。1人の朗読が終わったら、スピーカーに1人を指名させ、指名した人がコメント(よかった点と悪かった点を最低1つずつ)を指摘し、その後に僕が講評を述べる、という形で滞りなく終わった。全員実にいい出来だ。最後にはT先生もいらしていただいた。

帰宅してゆっくりしたいところだが、NHKのシフトが入っていたので、19時から22時まで通訳を行なって帰宅。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END