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第2回 米倉誠一郎先生

ハイキャリア編集部

工藤浩美のプロフェッショナル対談

【プロフィール】
米倉 誠一郎(法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授・一橋大学名誉教授)一般社団法人 Creative Response-Social Innovation School 学長
テンナイン・コミュニケーション社外取締役
一橋大学商学部産業経営研究所教授、同大学イノベーション研究センター教授を経て、2017年4月より現職。企業経営の歴史的発展プロセスを戦略・組織・イノベーションの観点から研究。

工藤:米倉先生、本日は「工藤浩美のプロフェッショナル対談」へお越しいただきましてありがとうございます。米倉先生には弊社の社外取締役としていつも貴重な経営アドバイスをいただいております。今日は「ウィズコロナの時代を生き抜くフリーランス力」についてお話をお伺いしたいと思います。よろしくお願いします 。

米倉:よろしくお願いします。

工藤:新型コロナウイルス感染拡大で2020年4~6月期のGDPは年率換算で27.8%減少し、戦後最大の落ち込みだと言われています。あるアンケートでコロナの影響で36%の正社員の賃金が下がったと回答しているのに対し、フリーランスで働く人は74%が下がったと回答しています。弊社にご登録いただいている多くの通訳者も緊急事態宣言下では大きな影響がありました。コロナとの戦いはマラソンに例えられますが、そんな中生き残っていくにはどうしたらいいでしょうか?

米倉:そんなことがわかればこんなとこいないですけどね。(笑) 日本全体からいうと、1997年の賃金ベースを100とすると、20年後の2017年にはアメリカの賃金ベースは175、ドイツがそれより少し低くて155、イギリスは185という伸びですが、日本はどうだと思いますか?

工藤:もしかして日本の賃金ベースは下がっているのでしょうか?

米倉:そう。日本だけ91と減少しています。去年の経済協力開発機構(OECD)が発表した世界の生産性では、日本は20位からついに脱落し21位になりました。日本の時間当たりの労働生産性は46.8ドルです。例えばアイルランドは107ドル、アメリカが76ドル、フランスが68ドル、イタリアやオーストラリアは60ドルぐらい、なんと日本と10ドル以上差がついていますが、私たち日本人は彼らより働いてないと思いますか?

工藤:いいえ、他国に負けないぐらいよく働いていると思います。なぜ賃金が下がっているのでしょうか?

米倉:働き方が間違っているんです。無駄な時間をたくさん使ってきたのかも知れない。みんなコロナで失ったものばかり注目していますが、僕は手に入れたものもたくさんあると思っています。例えば自由。自分の時間を自分で管理するという自由です。私たち日本人は人任せ、企業任せでがむしゃらに働いて、世界で21番目の生産性しかあげられていないというのが現実なんです。

工藤:今は根本的に働き方を見直すチャンスということですね。

米倉:そうです。僕の著書「2枚目の名刺 未来を変える働き方(講談社)」とい本に詳しく書いていますが、一人が持っている経営資源を一つの会社だけに使うのではなく、24時間自分で管理するという考え方です。今はちょうど過渡期なので大変だと思いますが、フリーランスの人たちの強さは自分で自分の時間を管理する力を持っているという点です。完全に会社に委ねて生きてきた人たちのほうがこれからは不利になる。それに東京に1300万人が集中して生活し、1時間以上の通勤時間をかけて都心の巨大なオフィス通っているのは意味があるのでしょうか?東京にいる必要がないというのはみんなわかってきたので、これからは結構面白い生き方ができると思います。

工藤:実際に弊社も在宅勤務やシフト勤務をやってみて、通勤時間から解放されて自由な時間が増えました。それと同時に在宅勤務はシビアな働き方だと気付きました。受け身だけではだめで、アウトプットだけで評価されるようになります。やっぱり自由に働くには自分により一層付加価値をつける必要があると思いました。

米倉:コロナの時代でも必要とされるエッセンシャルワーカーにということですね。みんな得手不得手があると思うので、自分が得意なところで活躍すればいい。工藤さんは東大出身?

工藤:いえいえ、違いますよ。(笑)

米倉:僕も東大じゃない。東大以外は落ちこぼれという価値観はコロナ時代では通用しなくなる。これからは大企業で働いているとか、学歴が高いとか関係なく、自分が得意な分野を生かして必要とされる人だけが生き残れる、そんなシビアで面白い時代になってきたと思っています。

工藤:翻訳業界ではAI翻訳の精度が上がってきて注目されています。これからは機械で出来るようなパフォーマンスに甘んじている翻訳者はそれこそ機械に取って変わられるかも知れない。生き残るには機械には訳せないレベルの高い翻訳をするしかない。

米倉:アウトプットが同じなら人よりAIの方が断然いい。AIは疲れないし、腹減らないし、眠らないし、賃上げ要求しないですからね。(笑)

工藤:それから特に最近思うのは何事も早い決断、早い行動が今まで以上に重要になってくるということです。未来がどうなっていくか、今まで以上に不透明です。答えがわからないからこそ何かをやる前に時間をかけて考えても仕方ない。だったら何事もスピード感をもってやろうと思っています。

米倉:いいこと言うね。僕は20年前までは結構真面目な学者で、1995年ぐらいからグレたわけ(笑)。 僕の本の表紙を見てもらうとわかると思いますが、95年前の表紙は茶色とか青とか落ち着いた色だったけど、それ以降は赤とか黄色など弾けている色になった。その理由は本当に恥ずかしいことですが、バブルが崩壊した1992年~93年頃、僕はグローバルの中でも日本企業は絶対負けないと本気で信じていました。例えばGMの工場見学した時に、トヨタの工場には到底及ばなかった。日本企業の社長の給与は新入社員の大体14倍ぐらいだと言われていますが、海外は1000倍ですよ。だからこそ日本企業は強いと信じて疑わなかった。しかし当時のシリコンバレーを視察した時、後頭部を強打されたような衝撃を受けました。今の世界の企業に目を向けてみると最近NYに上場したアリババや、ウォーレンバフェット率いる投資会社、バークシャー・ハザウェイなど、そしてGAFAの時代です。しかし日本を代表する企業は相変わらずトヨタやNTT、三菱銀行の名前が挙がっている。格差は歴然としてしまった。米国の電気自動車メーカーであるテスラの時価総額が、トヨタ自動車を抜き自動車業界トップに躍り出た。もうとっくに新しいゲームが始まっているんです。たからこそ、とにかく何でもやってみようという精神が大事です。失敗は増えるけど、その経験は必ず財産になると思います。

工藤:私もまったく同感です。今何をやって何をやらないか、目の前のことだけがこれからの未来を作ると思っています。先のことを心配するだけでは何も始まりません。

米倉:その通り、ダイナブック構想を提唱したアラン・ケイは「未来を予測する最善の方法は、それを発明してしまうことだ」という名言を残しています。まさに同じこと。今やっていることが未来を作る。

工藤:それにしてもパンデミックがこれだけ世界中に広がるとはだれも予想していませんでした。グローバル化が進み、国を超えて人の移動が増えたというのもあります。今はまだ海外に行こうと思っても気軽には行けない。弊社は北京に支店があるのですが、日本からの直行便はなく、大連に入ってそこで2週間待機になってしまう。まさに鎖国状態ですね。

米倉:でもね、この状態が20年続いていたら問題だと思うけど、まだたったの6ヶ月だよ。ウィルスが世界中に広がったのはグローバリゼーションの結果だけど、悪い側面ばかりではない。各国が知識を共有して協力しあいワクチンを開発することだって出来る。つまり世界の英知を集めてよりよい救済策を作っていくというグローバルな視点が重要だと思います。アメリカがワクチンを独占しようとしているが、それは違うと思う。

工藤:そうなると世界は分断されていくという危機感がありますね。先ほどの話に戻りますが、74%のフリーの方が収入が減ったとしても、フリーを辞めて会社員になりたいと答えた人は全体のたったの2%でした。

米倉:そうだろうね。僕は5年前に電気自動車に乗り換えたけど、多分もうガソリン車には戻らない。それと同じで、フリーランスの自由な働き方の中にいたら、管理される場所に戻りたいと思う人は少ないと思う。

工藤:自分の時間を自分で管理する、自分の努力次第で報酬を増やすことができる、これからは会社員からフリーランスで仕事したいと思う人も増えていきそうですね。

米倉:フリーランスとして自立している人もいれば、どこかの企業に付随して、生活が成り立っているフリーの人もいる。後者の場合は企業が傾いてしまうと、とたんに影響が出てしまう。もっとフリーランスの経済圏を大きくしていく必要があると思います。
話は少し飛びますが、フランスでは街の八百屋のおじさんもセカンドハウスを持っていて、週末にはバカンスに行く。そうするとその地域で生産されたものを、地域で消費するという地産地消が起こる。また家具も食器も2セットずつ揃えるわけなので、内需を支えています。ヨーロッパではこういう国が多いのですが、日本でもできないかなと思っています。誰もが近郊にセカンドハウスをもてば内需先行型の経済になるのではないでしょうか?週末に田舎に行って、暖炉を焚いたり、釣りをしたり、馬に乗ったり、フローなキャッシュを持つより、楽しい人生になると思います。

工藤:経済の作り方自体を変えていくということですね。そうなるとどこでも仕事が出来るフリーランスの人は断然有利ですね。もちろんフリーランスで仕事するためには付加価値があるアウトプット力を身に付ける必要がありますね。

米倉:力を身につけるというととてもハイエンドなイメージがありますが、実はいろんな力のつけ方があると思っています。例えばUberEatsは自転車に乗れれば仕事になる。特に高い技術が必要なわけではない。

工藤:UberEatsは結構な収入になると聞きました。緊急時代宣言下ではアルバイトが急にキャンセルになった学生や留学生にとって貴重な収入源になっていますよね。

米倉:フリーの仕事でも、ITや語学を駆使したハイエンドな世界は確かにあった方がいいと思うけど、経済はそれだけでは回らない。掃除がうまいとか、ベビーシッターが出来るとか、いいサービスを提供すれば、リピーターも増えてくる。いろんな分野で活躍するエッセンシャルワーカーになるというのが大事ですね。エッセンシャルワーカーはまさに今の時代のキーワードですね。

工藤:私は昭和に生まれて平成の中で仕事をしているので、すべてがクラウドやリモートになるのに実は少し寂しさを感じています。例えば弊社では勤怠管理をクラウドにして、給与明細も今までは手渡しだったのですが、今後はクラウド上で確認してもらうことになります。起業してからずっと20年間支給日には給与明細を社員一人一人に「今月もありがとう」という気持ちで手渡ししていました。それがなくなると思うと、寂しいというか、時代が変わったと実感します。今までは全員で朝会をして、みんなに声かけていましたが、それも今は難しい。私自身も令和に合わせて頭を切り替えていきたいと思っています。

米倉:僕もスタッフに給与を渡す立場になったので、その気持ちよくわかるよ。
最後にハイキャリアの読者にもう一つ伝えたいことがあります。それは政府がアベノマスクに466億円の税金をかけたことです。イギリスの経済学者ケインズは政策というのは有効需要を意識するべきだと言っています。例えば政府が使ったお金よりも国民所得が増える、これはいい政策です。

工藤:まさに企業でもそうですよね。

米倉:そうですね。アベノマスクの関連産業を上げると、ゴム、ガーゼ、配達員、そして印刷会社、それで460億もの税金を使う意味があったのか疑問です。例えば日本の中学生は322万人ですが、1人1万円のタブレット配っても322億円でまだ138億円余る。その予算で通信環境が整わない家庭にポケット wi-fi 配ればいい。液晶、半導体、各種部品、ソフトウエア部門に経済効果がある。日本で今一番遅れているのは教育のデジタル化だと思います。

工藤:税金をかけるのであれば、政治家ももっと頭を使ってほしいですね。

米倉:今こそ日本の中の問題を考えて、どこにボトルネックがあるのか追及していくべきですね。そこには大きなビジネスの可能性もあると思います。イノベーションはこういう変革の時代に広がります。大事なのはそれを楽しむこと。どんなに知識を持っている人も、とことん楽しんでいる人には絶対かなわない。危機を乗り切る一番の秘訣は、とにかく楽しむこと。これがイノベーションを生む秘訣だと思います。

工藤:私もウィズコロナの時代を楽しんで乗り越えて行こうと思います。今日はどうもありがとうございました。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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