第10回 四季をめぐって:子どもたちの成長
皆様こんにちは。早いもので、今年の暮れもすぐそこに迫っていますね。今回は、この1年間の子どもたちの成長を振り返り、「小学校留学inニュージーランド」記をまとめたいと思います。
初回に書いた通り、子どもたちの小学校留学の直接のきっかけは、私自身がアメリカでの交換留学生時代に「もっと小さい時に全く違う言葉と文化の中に暮らしてみたかった」という思いを強く抱いたことです。そこから出発し、母親の私が勝手に企画してしまったニュージーランド小学校留学を、子どもたちがどうか楽しんでくれるように、というのが私の一番の願いでした。
一方で、滞在中にある程度の英語力を身につけてくれたら、という希望ももちろんありました。でも、そのための土台として、日本を出る前に特別に英語を勉強することはありませんでした。それは、子どもたちがほぼゼロからスタートして、耳だけでどれくらいの英語力をつけるのか試してみたい気持ちがあったからです。私が高校3年で交換留学した時、頼りにしたのはそれまで日本で積み上げてきた文法と単語でしたが、まだ小学校低学年の子どもたちには、英語の音から学ぶ力があると期待したのです。
父親の海外赴任などの場合、海外滞在が長くなると子どもの日本語力が弱くなるため、家庭では意識して日本語を使うべきだ、というのが一般的な考え方のようです。でも我が家は期間限定の留学生活ということで、子どもたちが1日でも早く英語環境に慣れるようにと、私はNZ到着当初から常に英語を使いました。初めのころ、子どもたちはしょっちゅう聞き返したり、「どういう意味?」と日本語で説明を求めてきましたが、ひと月も経たないうちに、母親の指示くらいは問題なく理解するようになりました。そのうちに学校で、仲良しの友達と肩を組んだり、わいわいと楽しそうに追いかけっこしたり、時にはおしゃべりする姿を見かけるようになりました。
学校でESOL(英語特別指導)が始まったのは、1学期の3週目からです。娘と息子、それぞれに担当の先生が1人ついて、月曜から木曜まで毎日30分間、個別に英語を教わるプログラムです。ESOLの進め方は先生ごとに独自のやり方があるようで、娘の先生は「この年頃の女の子はとにかく話がしたいものよ」と、とにかく娘とたくさん話すことを重視していました。英語の文章を教えるときも、校内を一緒に散歩しながら「We are going upstairs.(階段を上っています)」など実体験で教えてくれました。また、娘のクラスで宿題としてプロジェクトが出されたときは、ESOLの先生と一緒に発表内容を考えてパワーポイント資料を作成し、口頭発表の練習をしました。日本とNZの小学校生活の違いをまとめて発表したときは、クラスの友達も興味を持って聞いてくれたようです。
一方、息子のESOLの先生は読む力と書く力も重視し、息子は毎日、宿題で出される薄いリーディング教材の音読とスペリング、絵日記を地道に続けました。書く方は最初、先生が書いた1行をノートに写していただけでしたが、そのうちにセンテンスを聞き取って書くことができるようになり、さらに知っている単語を並べて自分で作文するようになりました。3学期頃からぼくは作文の時間が一番好き!と言い、4学期が終わるころには、先生の助けなしに作文用紙に2-3枚も書き綴るようになりました。また、1か月に1回程度、1分間で自分の興味のあることをクラスの友達に話す「お話当番」が回ってきましたが、息子はこの当番で宝物自慢をするのをとても楽しみにしていました。
NZ滞在4か月経過時と9か月経過時に、私が主人にメールで書き送った息子(7歳)と娘(9歳)の英語力の伸びや生活の記録を以下に抜粋します:
(4ヶ月経過時)
息子
・中学校1年生前半程度のリーディングテキスト(be動詞、said、wentなど一般動詞の過去形、will、canなどの助動詞の文章)をスラスラ読む
・毎週5単語のスペリングテスト(上述の基本単語)で高得点
・家ではほとんど日本語だが、Can I? Can you? の文章を自分から言う;兄弟げんかでStop it!などと言う;母親の英語の指示を理解する(Let’s eat, Get ready, Quickly, 等)
・親しい友達あり。休み時間は同級生とサッカー中心。知らない子とでも遊び始める
・おどけてみせて、友達を笑わせる。学校が始まった頃は「1日が長い」と嘆いていたが、このごろは放課後5時まで学童に行きたがる
娘
・ESOLでは口頭コミュニケーション中心。自分から発言することはまだ少ないが、ESOLの先生の口頭指示は正確に理解している(宿題の範囲や中身)
・毎晩薄いテキスト1冊を音読。最初は母親に読んでもらうだけで、自分から読もうとはしなかった
・2学期(3か月過ぎ)から毎週、10単語程度のスペリングテストあり
・家ではほとんど日本語。母親の英語の指示を理解
・親しい友達あり。休み時間は鬼ごっこやビー玉交換など。知らない子には話しかけられないが、新しいことへの挑戦(ホリデープログラムへの参加など)は積極的
・手先が器用、絵がうまいことから、クラスの仲間に一目置かれている
(8ヶ月経過時)
息子
・リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングの4側面すべてで顕著な伸びが見られる
・学校で、基本的な文章(例 I went to Raphael’s birthday party.)を先生の支援なしで書くことができる。3学期中盤(9月初旬)の文章作成のテストで、45分間にA4サイズの紙1枚半分の文章を書く。担任、ESOLの先生ともに「よくできている」との評価
・家で、学校での出来事を英語で話すことがよくある。NZ訛りで早口で話すため、母親の私が聞き取れないことすらある
・兄弟げんかを最初から最後まで英語ですることがある。姉への文句を英語で母親に伝える(例 She is annoying me.)
・友達とのコミュニケーション良好。一番の友達の家で9月初旬に1泊したが、何の問題もなし
・8月末に学年集会でSuper Student Award(「スーパー生徒」賞)をもらう。「何にでも積極的に挑戦する」ところが評価された。クラスによくなじんでいる証拠と思われる
娘
・ESOLの先生より、オーラルコミュニケーションが積極的になっていると評価される
・家で英語を使うことが増える。英語のアウトプットでは表現、発音ともに弟の方が一枚上だが、英語で話される内容の理解力は圧倒的に弟を上回る。一度母親とけんかになり、母親がすべて英語で(抽象的な内容も含めて)まくしたてたところ、必死で英語で抗議しようとした(母親の怒りの中身はすべて正確に理解していた)
・同じクラスの友達とのコミュニケーションが増える。9月初旬の休校日に半日、同じクラスの3名が遊びに来たが、遊びと会話が途切れなかった(1学期に同じく友達と半日を過ごした時は、母親が介入しないと間が持たない感じであった)
・3学期に行われたクロスカントリーの練習でトータル80周(Year 4女子で3位)。大会ではYear 4女子(約50名)中で9位
最後のメモからさらに3か月が経過し、あとひと月でまる1年を迎えるという現在、息子と娘の会話は、家でもすべて英語になりました。学校での出来事を振り返って大笑いするときも、おもちゃをめぐって大ゲンカをするときも、お互いに感情をタップリこめながら英語でやりとりしています。やや込み入った内容を私に話すときも、二人ともまずは英語で説明しようとします。私が不完全な単語や文法を補ってやり、英語で言わせた後、私が「今言いたかったのはこういうこと?」と日本語で聞き直して、内容を確認するようにしていますが、そうやって助け舟を出す回数も少なくなってきたように思います。
英語の上達と共に学校がますます楽しくなり、また放課後はスポーツやアートの活動に精を出し、帰宅後も自宅の広い裏庭で体を動かすいきいきとした子どもたち、そして当初の期待通り、耳で英語を覚え、英語をコミュニケーションの一つのツールとして使えるようになってきた子どもたちを見るにつけ、この1年間の成長を実感する今日この頃です。そしてこの1年間は、私自身も、子どもたちを通して何人かの親しい母親仲間ができ、お互いに家に招いたり招かれたり、週末に一緒に遠出をしたりと、単身での留学時代とは異なるたくさんの楽しい経験に恵まれました。
帰国後、子どもたちがこの1年間に身につけた英語の力のいくらかは失われてしまうでしょう。それでも、学年が進み、いよいよ学校で英語の授業が始まったとき、初めて習う文法を通して、自分たちが耳で覚えた英語を新たな角度からとらえ、あの時あまり意味もわからず使っていたあの表現はこういう意味だったのか、というような振り返り体験をたくさんすることができるのでは、と期待しています。そこでまた興味を持てば、子どもたちは今度は自ら、さらに深い英語や英語圏の文化へ飛び込んでいくに違いない、と思います。
1年弱の間、私のつたない文章にお付き合いいただきましてありがとうございました。そして、今回の連載という貴重な機会を与えてくださったテンナインの工藤社長、そして原稿を送るたび、いつも温かい励ましの言葉をかけてくださった翻訳部の渡邉さんに、この場をお借りして深くお礼申し上げます。
それでは皆様、よい年末年始をお迎えください。皆様にとって、2014年も思い出いっぱいの素敵な1年になりますように!