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赤玉ポートワインの思い出

工藤浩美

工藤浩美の東へ西へ

オフィスの本棚の上に、1枚の写真が飾ってあります。
サラリーマン最後の日、家に帰って撮影したものです。
たくさんの通訳さんからやさしい言葉や励ましの電報、そして抱えきれないぐらいの花束をいただきました。本当に涙が出るぐらい嬉しくて、でも花はいつか枯れてしまうので、記念になればと花束と一緒に写真に残してもらいました。

今でも仕事でふっと疲れた時、初心を見失いそうになった時、この写真から勇気をもらっています。

写真をよく見ると、花束と花束の間に「赤玉ポートワイン」が写っているのですが、分かりますか?

このワインはその時働いていたビルの清掃のおばさんにいただいたものです。考えてみたら、名前も知りません。ただ毎日夕方ゴミ箱のゴミを回収してくれるおばさんと、いつも一言、二言、言葉を交わしていました。

「お疲れ様」
「疲れた顔しているよ」
「まだまだ仕事終わらないんですよ」
「寒くなってきたね」
「この飴食べますか」

そんな何気ない会話ですが、おばさんと話をすることでリフレッシュしていたのかもしれません。

そのおばさんはなぜか私の退職日を知っていて、最後の日「これから寂しくなるねぇ」と照れ笑いしながら、このワインを手渡してくれました。胸が熱くなりました。

ちょっと甘すぎる「赤玉ポートワイン」
私には一生の思い出の味です。

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記事を書いた人

工藤浩美

白百合女子大学国文科卒業後、総合商社勤務。
その後通訳・翻訳エージェントに2社、合計11年間勤務。通訳コーディネーターとしてこれまでに数百件の通訳現場のサポートを行なう。 2001年7月に株式会社テンナイン・コミュニケーションを設立。趣味はシナリオ執筆。

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