起業をしようと決心するも、一人で出来ることは本当に少ないと気づいたその日から、一緒に働いてくれる人を探そうと決心しました。

「そうだ、彼女に声を掛けてみよう」

そう思いついたのは会社を登記する１週間ぐらい前だったと思います。私の脳裡に浮かんだ女性とは、今テンナインの取締役でもある渡邉美千代さんです。彼女とは以前勤めていた通訳エージェントで、夜中まで一緒に仕事をした仲間でした。妊娠と同時に先に退職されていたのですが、その後も時々連絡を取っていました。またお子さんが１歳を過ぎた頃からどこかで働きだしたという話も聞いていました。何より彼女は「仕事が出来る」ということを知っていたのです。

「これから通訳・翻訳エージェトを作るんだけど、一緒に働いて欲しい」と声を掛けました。当時の彼女の月給が２０万だと聞いて、私は大胆な提案をしました。「私が月給１０万円、渡邉さんに月給１５万円払うから来てほしい。今の仕事より５万円少ないけど、絶対に黒字決算にしてその分はボーナスできっちり支払う」と宣言しました。彼女の給料を保証するだけの根拠は何もありませんでしたが「今の仕事を辞めるのに１ヶ月ぐらいかかるので、９月からテンナインに入社します」と二つ返事で了解してくれました。ずっと後になってから「何で売上ゼロ、まだ立ち上がってもない会社に転職しようと思ったの？不安じゃなかった？」と聞いたことがあります。「工藤さんの営業力を知っていたら全く不安はなかった」という答えでした。

私は売上ゼロ、顧客ゼロ、登録者18人という状態で、役員を迎え入れたのです。会社設立から1ヶ月半で渡邉さんがやってくる。それは嬉しいと同時に、私にとっては大きなプレシャーでもありました。最悪自分の収入は1年ぐらいなくても何とかなる。でも渡邉さんの給料だけは、絶対に支払えるように営業しよう。

まさに心に火が付いた瞬間でした。絶対に9月までに売上を作るという覚悟が出来ました。テンナインとゆかりのある登録者の方だったら、いかに彼女が優秀なコーディネーターであるか知っていると思います。ある人からは「私も工藤さんのように起業して一人だけ採用枠があるとしたら、渡邉さんを採用する」と言われたり、通訳者には「工藤さんのコーディネーションも良かったけど（←これはお世辞だと思います）渡邉さんのコーディネーションはすごくいい。確認の確認の確認をしてくれる」と言われたりしました。

外を走り回り、奔走する私のフォローを彼女が全部やってくれました。今のテンナインの基礎を作ってくれたのも、彼女です。私は元来大雑把なので、彼女のフォローで何度も助けられました。「経営者は孤独」だとよく言いますが、私は一度も孤独を感じたことがありません。それも彼女の存在が大きいと思っています。