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社名に込めた思い

工藤浩美

テンナインヒストリー ~挑戦への軌跡~

起業すると決めたら、やることは山程ありました。そして会社を退職していた私には、時間だけはたくさんありました。家で考え事をしていると、昼間リビングの窓から光が入ってレースカーテンの影を作っていました。そういう光景をのんびり見つめる時間も私にとっては新鮮でした。まず最初に取り組んだのは社名を決めることです。社名を決めないことには、名刺も社印も作ることは出来ません。色々自分でも考えてみたのですが、ピンとくる名前は一つもありませんでした。なかなか決められず当時シナリオ学校で一緒に勉強していたライターの方に相談したところ、数日考えてくれて、「テンナイン・コミュニケーション」という社名はどうですかと提案されました。

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9が10個並んで限りなく100%という意味です。「テンナイン」という言葉とその意味を聞いた時、通訳現場での光景が頭をよぎりました。

私はそれまでコーディネーターとして数多くの現場に立ち会いました。コーディネーターは会議が始まる前、最終資料を調達したり、スピーカーと通訳者の事前打ち合わせをセッティングしたり、とにかく会場を走り回ります。ただ一旦会議がスタートすると、すべてを通訳者達に委ねるのです。そして会場の後ろで目立たないようにレシーバーを借りて通訳者達のパフォーマンスを聞いたりします。淀みなく、そして流暢に、まるで手元に読み原稿があるかのような素晴らしいパフォーマンスの数々。通訳者の訳を聞いているだけで、鳥肌が立ったことも何度もありました。

そして無事に会議が終わると、ブースのドアを開けて「お疲れ様でした。素晴らしいパフォーマンスでしたね」と声を掛けるのを習慣としていました。そんな時、今まで誰一人として「今日の通訳は完璧にできた」という通訳者はいませんでした。「スピーカーとマイクの位置が少し離れていて聞き取りづらかった」「次回からここの資料がもっと欲しい」「スピーカーが早口だったから(私の訳は)ついていけたかしら?」「ここはこう訳せばもっと分かりやすかったかも」などなど、それがどんなに素晴らしいパフォーマンスであったとしても、プロフェッショナルとして現状には満足せず、もっと高みを目指すという姿勢にいつも圧倒されていました。

通訳者の皆さんに教えられたことの一つ、それは40代になっても、50代になっても筋トレすれば筋肉が付くように、いくつになっても人は成長することが出来るということです。今の自分の力を100%だと思ってしまうと、それ以上の成長は望めません。考えてみたら100%完璧なコミュニケーションというのは存在するのでしょうか?言葉に携わる仕事をしているからこそ、言葉は相手の心に届いてこそ意味があると思います。100%完璧なコミュニケーションを提供する会社ではなく、常に100%を目指す姿勢の会社を作りたいと考えました。そういう人々が集まる集団にしたいという思いを込めて「テンナイン・コミュニケーション」という社名にしました。

1人で夜中にこっそりつぶやいてみました。
「お電話ありがとうございます。テンナインコミュニケーションでございます」
東の空がゆっくり東雲色に染まっていくように、漠然と会社の輪郭というか、人で例えると人格のようなものが出来上がっていくと感じた瞬間でした。

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記事を書いた人

工藤浩美

白百合女子大学国文科卒業後、総合商社勤務。
その後通訳・翻訳エージェントに2社、合計11年間勤務。通訳コーディネーターとしてこれまでに数百件の通訳現場のサポートを行なう。 2001年7月に株式会社テンナイン・コミュニケーションを設立。趣味はシナリオ執筆。

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