2000冊の本に囲まれて暮らすわたしが出会った宝物のような本〜建礼門院右京大夫集〜
日本の古典文学が大好きなんです!と、あちこちで公言しています。自分の持っている2000冊の本のうち、けっこうな数を日本の古典が占めていて、自分にとっては、完全に生活の一部になっています。
『枕草子』『源氏物語』『蜻蛉日記』『紫式部日記』『和泉式部日記』『御堂関白記』『古今和歌集』『新古今和歌集』『拾遺和歌集』『詞花和歌集』、、、
こうした作品には、1000年前の人たちの恋や人生の悩みが赤裸々に綴られていて、悲しいことやつらいことがあったときに、読みたくなるんです。「あの人のあの日記のあの辺りにこんな話があったような」という具合でページをめくると、自分が感じているのと同じ気持ちが、和歌や日記として表現されていて嬉しくなります。そして、何よりも、時を超えた人間の感情の普遍性に感動します。
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そんな自分が、古典文学の中でも、ダントツ1位で好きな本があるので紹介したいと思います。
それが『建礼門院右京大夫集』です。
1185年、壇ノ浦の戦いで、栄華を誇った平家が滅亡。戦いの最中、安徳天皇とともに入水した建礼門院徳子に仕えた女房が、建礼門院右京大夫。戦乱の時代に、かつての恋人を含めて、親しくしていた平家の人々が非業の死を遂げていった。
こうした背景もあって、人の世や命のはかなさを思う歌に溢れている自伝的日記が、『建礼門院右京大夫集』です。360以上もの和歌と、それぞれの歌にそっと添えられた詞書に、悲しみに見舞われた人生への思いが溢れています。
寂しいとき、悲しいとき、何気なく手に取ると、歌のひとつひとつ、言葉のひとつひとつが、心に沁みて涙が止まらなくなります。
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そんな『建礼門院右京大夫集』の中でも、寒い冬の日に星空を見上げると思い出す歌があるので、紹介したいと思います。本当に女の子の日記のように、思いが溢れるままに綴られている流れ、そして、最後に歌が来て、彼女が感じた感動が胸に迫ってきます。
寒い寒い12月の夜に、星空を見上げたつもりで読んでみてください。
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十二月ついたち頃なりしやらむ、夜に入りて、雨とも雪ともなくうち散りて、叢雲さわがしく、ひとへに曇りはてぬものから、むらむら星うち消えしたり。引き被きふしたる衣を、更けぬるほど、丑二つばかりにやと思ふほどに引き退けて、空を見上げたれば、ことに晴れて浅葱色なるに、光ことごとしき星の大きなる、むらなく出でたる、なのめならずおもしろくて、花の紙に箔をうち散らしたるによう似たり。今宵はじめて見そめたる心地す。先々も星月夜見馴れたることなれど、これはをりからにや、ことなる心地するにつけても、ただ物のみおぼゆ。
月をこそ ながめなれしか 星の夜の ふかきあはれを こよひしりぬる
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十二月一日ごろだったか、夜になって、雨とも雪とも言えない冷たいみぞれが、降り続いていた。雲があちこち群がってあわただしく流れて、すっかり曇るでもなく、まばらに出ている星々が瞬いていた。夜更けに、真夜中の二時過ぎかというころに、夜具を引きのけて起き、空を見上げると、澄み渡った藍色の空に、明るく大きな星々が一面に出ていて、心に沁みる美しさで、薄藍色の紙に、金の箔を散らしたのによく似ていて、こんな美しい星空は、今夜はじめて見たような気がする。星月夜は見なれてきたけれど、折りが折りだったせいか、特別に感じられ、ただただ思いを巡らせるばかり。
今まで 月を趣深いものとして 眺めてきたけれど
星の夜の深い趣を 今夜はじめて知った