デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
こんにちは。今回は翻訳部の松本よりお届けします。
ここ数年で本格的に登山にハマってしまったのですが、その影響で著名な登山家の人についてもネットで調べたり、本を読んだりするようになりました。
そして先日、ある登山家の方についての本を読み、強烈な衝撃を受けたのでご紹介します。
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『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』
河野啓
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“七大陸最高峰単独無酸素”登頂を目指し、エベレストへの8度目の挑戦となった2018年5月に滑落死して35歳でこの世を去った登山家・栗城史多氏。
本当に衝撃を受けました。
本人による手記ではなく、登山家ではないジャーナリストの著者の方が取材内容を基に書いた本なので、登山用語についても分かりやすくて読みやすく、まだ登山についてそれほど詳しくない自分が最初に読む登山家の人の本としてはふさわしい内容だったと思います。自分のようにまだ登山の世界に足を踏み入れたばかりの人や、登山をやらない人にもお勧めです。
まず特徴的なのが、栗城さんは山野井泰史さんやラインホルト・メスナーなどの登山界の伝説的な偉人や超人とは違い、残した登山実績としては、ごくごく平凡であったということ。また、「自分が山を登る姿を自撮りしてネットで公開する」という今や多くの登山系YouTuberやSNSインフルエンサーがやっているスタイルの先駆けだったということ。そして“七大陸最高峰単独無酸素”登頂という夢を掲げ、クラウドファンディングなどで億を超える巨額の資金を集めていたこと。
「夢を掲げ登山に挑戦する青年」として賞賛を受ける一方、「登山家として3.5流」「登山家ではなく下山家」「詐欺師」など、多くの強烈な批判も受けていました。
この本はあまりにも多くの矛盾と謎を抱えていた栗城さんに関するミステリー小説のようで、様々な取材から見てくる栗城さんの驚きの言動に怒り、笑い、喜び、呆れ、悲しみ、次から次へと感情が動かされ、最後まであっという間に読んでしまいます。
なぜ「単独」にも関わらず、サポートスタッフを大勢抱える栗城隊が編成されていたのか?
なぜ「無酸素」にも関わらず、酸素ボンベがテントにあったのか?
撮影されていた栗城さんの登山の映像はどこまでが「真実」だったのか?
そして、滑落死は本当に事故だったのか?
この本にこれほど魅了された一番の理由は、たぶん栗城さんが自分に似ているからだろうと思います。つまり見栄っ張りで、カッコつけで、努力が嫌い(笑)
だからこそ、なぜ彼は死ななければならなかったのか、ずっと考えを巡らせてしまいます。
そしてこの本の著者は、多くの取材から著者なりの一つの明確な答えを最後に出してくれます。
満足度120%の読書でした。