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実践!法律文書翻訳講座 第十三回 助動詞など その2

江口佳実

実践!法律文書翻訳講座

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第十三回 助動詞など その2
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前回は、契約書などでよく使用される助動詞のうち、shall と will をとりあげました。
今回は、その他の助動詞を見ていきたいと思います。

では前回の宿題から。

【例文】

1. If the Licensed Materials fail to operate in conformance with the terms of this Agreement, Licensee shall immediately notify Licensor, and Licensor shall promptly use reasonable efforts to restore access to the Licensed Materials as soon as possible.

2. Nothing in this License shall be deemed to grant any rights to trademarks, copyrights, patents, trade secrets or any other intellectual property of Licensor or any Contributor except as expressly stated herein.

【訳例】
1. ライセンス素材が本契約の条件に適合して動作しない場合、ライセンシーは、直ちにライセンサーに通知するものとし、ライセンサーは、すみやかに合理的な努力を用いて可能なかぎり早急にライセンス素材へのアクセスを復旧するものとする。

2. 本ライセンスのいかなる定めも、本契約書に明記されるものを除き、商標、著作権、特許権、トレード・シークレット、またはその他でライセンサーのあらゆる知的財産権に対するいかなる権利をも付与するとみなされてはならない。

【解説】
1の shall は、Licensee や Licensor の義務を表す shall です。一般に「~するものとする」と訳します。
2の方は、主語が Nothing と、否定形ですので、禁止の意味となり、「~してはならない」と訳します。

1.でimmediately と promptly という行動のすばやさを表す副詞が使われていますが、immediately は、「直ちに」という、最も緊急性の高い意味になります。これに対して promptlyは、緊急性がimmediately よりもやや低くなります。ドラフトを作成した側が、自分たちの義務にはpromptlyを、相手方の義務にはimmediately を使用することがあるという点は、前回お話した shall と will の使い分けに似ていますね。


◆ May

通常の文章では、助動詞の may は「~してもよい」という許可や、「~かもしれない」「~の場合がある」という可能性を表すことが多いのですが、契約書で助動詞の may が用いられている場合、その意味は「~できる」という、契約上の権利を表していることが多いです。

【例文】

In the event a Force Majeure event extends for a period in excess of thirty (30) days in the aggregate, either party may immediately terminate this Agreement upon written notice.

【訳例】

不可抗力事由が合計で30日を超える期間にわたる場合、いずれの当事者も、書面で通知することにより、直ちに本契約を解除することができる。


「~できる」という権利の意味で can が用いられることは滅多にありません(絶対にないとは言い切れませんが、あるとすれば、法律文書らしくないという印象を受けます)。

権利を表すその他の表現では、is entitled to ~、have/has the right to ~ という言い方があります。

【例文】

1. The injured party is entitled to seek an injunction to prevent the threatened or actual disclosure or use of Proprietary Information in addition to all other remedies that may be available.

2. Company represents and warrants that it is authorized to and has the right to enter into this agreement and that it neither has made nor will make any contractual or other commitment which would conflict with its performance under this agreement.

【訳例】

1.損害を被った当事者は、利用可能なその他の救済に加え、本件機密情報の開示のそれまたは実際の開示を防止するために、差止めを請求をする権利がある。

2.本件会社は、本件会社が本契約を締結するよう授権され、およびその権利があることならびに、本契約に基づく本件会社の履行に矛盾するような契約上またはその他の約束を行っていない、または今後行うことがないことを、表示および保証する。


ただし may は、「~できる」という権利の意味の以外にも、普通の「~の場合がある」の意味で使用されることもあるので注意が必要です。

【例文】

The Software may contain or be derived from portions of code and documentation provided by third parties.

【訳例】

本件ソフトウェアは、第三者によって提供されたコードおよびドキュメンテーションの一部を含む、またはそれらから派生している場合がある。


また、否定形でmay not となると、「~する権利がない」「~できない」ということで、「~してはならない」の不作為の義務に近い意味になります。厳密には、不作為の義務は shall not で表されるので、may not になっているときは「~できない」「~する権利がない」という意味です。ですが、契約書上で「~する権利がない」ということは、「~してはならない」と同じことですね。

【例文】

LICENSEE MAY NOT USE, COPY, MODIFY, DISTRIBUTE OR TRANSFER THE SOFTWARE OR ANY COPY, OR MERGED OR COMBINED PORTION THEREOF, IN WHOLE OR IN PART, EXCEPT AS EXPRESSLY PROVIDED FOR IN THIS AGREEMENT.

【訳例】

ライセンシーは、本契約に明記される場合を除き、本件ソフトウェアもしくはそのコピー、またはこれらを合体もしくは組み合わせたものを、全体的にも部分的にも、使用、複写、修正、配布、または移転することはできない。


助動詞は普通の文章でも頻繁に使用しますので、一見、難しくはない表現なのですが、法律文書で使用するときは、普通の文書とは異なる意味で使用します。契約書で使用されるときは主に、当事者の権利・義務、あるいは許可・禁止を表すために使用されることがほとんどですから、「誰にとっての権利/義務、許可・禁止」なのかを明確にしながら訳すことを心がけましょう。

では、宿題です。

宿題

1. The Licensed Program may be transferred to another party provided the other party agrees to accept the terms and conditions of this Agreement.

2. Neither party may assign or otherwise transfer any of its rights or obligations under this Agreement, without the prior written consent of the other party, except that ABC may assign this Agreement to an affiliated company.

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記事を書いた人

江口佳実

神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997 年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。

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