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金融翻訳ポイント講座

不特定多数の読者が対象となる金融翻訳では、質の高いアウトプットが求められます。 高品質の翻訳を上げるために必要なポイントを丁寧に解説します。

第26回 金融翻訳者になるには(3)

こんにちは。これまで2回にわたり、「金融翻訳者になり、その後もずっと金融翻訳者を名乗り続ける」ために必要なことをお話してきました。今回は「資格」のうち、証券アナリスト検定についてです。わたし自身がこの資格を取得しましたので、これまでの話より詳しくなります。よって興味ないよ、関係ないよ、という方は、申し訳ありませんが、読み流していただければと思います(笑)。

改めまして、先回は、
1)日本経済新聞や金融業界紙、関連の専門書を読む
2)証券外務員などの資格をとる
3)金融翻訳の講座を受ける
の2)の中から、簿記、ファイナンシャルプランナー(FP)、証券外務員についてざっとお話しました。

証券アナリスト(Chartered Member of the Securities Analysts Association of Japan、略称CMA®)は、日本証券アナリスト協会が認定する資格です。

試験は一次と二次に分かれており、一次の「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」「財務分析」「経済」の三科目すべてに合格すると、二次に進むことができます。

このうち「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」は、証券アナリスト試験のまさに本丸。証券分野のテクニカルな知識をこれでもかと詰め込みます。多くは計算問題で、文系出身者の場合、ここが最大のハードルになるのですが、実際に数字を使っていろいろな問題を解く過程で、証券投資では何が問題となり、どのような理論を背景に投資家は何を目指し、実際にはどのような行動をとるのかといった点が、まさに「体感」できるように思います。

投資関係の英語で頻出するrisk、exposure、volatility、correlation、extra return(alpha)といった何気ない用語も、その背後にある理論が頭にあるとないとでは、原文の読み込みの深さが大きく違ってきます。また実際に金融翻訳者になってから苦しむことの多いデリバティブや金利などの分野も含まれますので(今から考えると、正直、基礎部分だけですが)、いずれ必ず役に立ちます。

「財務」は、実は今回のお話の対象外とさせてくださいとお伝えした「会計・経理・財務」の分野です。しかし当然ながら、株式や債券など企業が発行する証券と、その企業の財務状況とは切っても切り離せませんので、やはり企業財務やその分析方法の全体像がざっとでも頭に入っているのといないのとでは、まったく違います。企業財務を「社外から」すなわち投資家の視点から、いかに分析するかという視点が得られる点も重要です。

最後の「経済」は、ずばり経済理論。これが必要な理由は、くどくどと述べる必要もないでしょう。経済学とはいっても、多くは現実に則した内容を学べるせいか、実際に翻訳業務を進める場面で、役に立つ場面がかなりあります。例えばごく基本的なところで、国内総生産(GDP)の構成要素(消費+投資+政府支出+輸出―輸入)が頭にあるかどうかで、場合によっては読み違いが防げることさえあります。

一次で以上の3科目にすべて合格しますと、次は二次で「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」「コーポレート・ファイナンスと企業分析」「市場と経済の分析」「職業倫理・行為基準」の4科目を受験することになります。名称から分かる通り、最初の3科目は一次の3科目にそれぞれ対応しています。最後の「職業倫理・行為基準」は、証券アナリストとして実際に業務を行ううえで知っておくべき倫理面の問題を学びます。

正直、職業倫理は我々翻訳者にはあまり関係ありませんが、どのような行為が金融商品取引法や職業倫理基準に抵触するのかの説明がことのほかおもしろく、楽しく勉強した覚えがあります。例えば「X証券のリサーチ・アナリストAさんは、大手小売業のY社を担当して長く、特に経理担当者のBさんとは懇意である。このほどY社の経営状況を説明する調査レポートを書こうとしたところ、Bさんから豪華なすき焼きセットを送られてきたため、レポートで株価のマイナス材料を扱わないことにした」など具体的で、結構おもしろいです(笑)。

まじめな話に戻りますと、最近は証券発行者や運用者、投資家の社会的責任が厳しく問われるようになっており、その手の翻訳も増えてきていますので、全般的な業界の流れといったものを知る役には立つと思います。(「スチュワードシップ・コード」や「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」がキーワードです)

さて。

実際にとる場合ですが、最短の場合でも一次で一年、二次で一年かかります。またそれぞれ日本証券アナリスト協会の通信講座(各5万円前後)の受講が必須ですので、資格取得までに少なくない時間とお金が必要となります。

わたしの場合、最初は独学で、ただ内容がざっと分かれば良いというつもりで始めたのですが、特に本丸の「証券分析」は独学ではまったく歯が立たず、思いきって資格予備校の講座を受けることにしました。そのため費用は当初の想定を大幅にオーバーしましたが、後悔はまったくありません。

上でも何度か言いましたように、原文の背後にある理論や考え方といったものが見えるようになりましたし、証券の専門家(証券会社等)が運用の専門家(機関投資家等)のために書いているような、それなりにレベルの高い文章も訳せるようになりました(もちろん、「何を言っているのかさっぱり」なために、いまでも正直、放り出したくなることがありますが)。講座にかけた費用も十分に回収したように思います(笑)。

ただ、やはり2年というのは長いですし、勉強している間は仕事ができませんので、すでに仕事をばりばりやっている翻訳者さんはなかなか難しいかもしれません。いずれにしても、我々の場合は資格をとること自体が目的ではありませんので、その人にあったやり方と時間のかけ方で学んで行けばいいのではないかと思います。

今回も長くなってしまいました。あと1回、このお話を続けたいと思います。


第25回 金融翻訳者になるには(2)

こんにちは。今回も「金融翻訳者になり、その後もずっと金融翻訳者を名乗り続ける」ために必要なことを、わたし自身の経験もまじえてお話したいと思います。(「翻訳者になると決めてから専門を決めた」人のケースです)

先回は、よく言われる内容として
1)日本経済新聞や金融業界紙、関連の専門書を読む
2)証券外務員などの資格をとる
3)金融翻訳の講座を受ける
を挙げ、1)についてお話しました。きょうは2)についてです。

当然ながら、関連の資格をとるには時間とお金がかかりますけれども、それだけの価値はあるように思います。一番のメリットは、やはり「まとまった知識を体系的に身につけることができる」点でしょう。個人で様々な本を読むのももちろん悪くはないのですが、どうしても知識が偏ったり、断片的になってしまいます。

また、株価や金利がどうの、オプションの仕組みはどうのといった、いわゆるテクニカルな知識を学ぶことはもちろん重要ですが、それに加え、資格によっては事業者(証券・運用会社や銀行)側の目線を身につけることができるという点で、メリットが大きいように思います。例えば「自分で投資しているから専門知識には自信がある」というような人でも、それはあくまで「消費者目線」であって、翻訳を依頼してくる事業者の感覚とは異なるからです。

金融翻訳を依頼する事業者(ソースクライアント)は多岐にわたりますが、当然ながら、証券会社や銀行、資産運用会社など、日々金融市場と関わりを持ち、金融市場が事業の場となっている企業が大半を占めます。これらの企業は、機関投資家として金融商品を購入・運用する資産運用会社などの「バイサイド」と、逆に証券会社など、金融商品を主に機関投資家に売却する「セルサイド」に大きく分けられます。「バイサイド」は「投資家」ですので、「消費者」と通じる面はあるものの、「顧客の財産を預かって運用することを商売にしている」点で、一般投資家とは大きく異なります。

さて、金融と聞いて、具体的な資格として普通思い浮かぶのは、
・日商簿記
・ファイナンシャルプランナー
・証券外務員
・証券アナリスト
などでしょうか。

簿記は、「金融・証券」と重なる部分が多いとは言えないものの、企業の経営状況を判断するための企業財務の知識が得られますので、まったく無駄ではないかもしれません。当然ながら、株式や債券を扱うには、それを発行している企業の経営状態を知る必要があるからです。ただ、例えば1級合格のための勉強時間は平均500時間だそうで、簿記の知識が金融翻訳でどれほど使えるかを考えると、そこまで時間をかける価値はないかもしれません。

次にファイナンシャルプランナー(FP)。これもまったく無駄ではないと思いますが、FPはあくまでも個人や家庭を対象に財産の管理等について助言するための資格ですので、先程言ったような「事業者目線」を得ることは難しそうです。

その点、3番目の証券外務員は、あくまでも事業者目線であり、実際に金融商品を売買するための知識が得られるという点で、大いに有用と思います。一種と二種があり、二種では信用取引やデリバティブ取引など、リスクの高い商品が扱えないとのことなので、せっかくならば一種の勉強をすることをお勧めします。

証券外務員のテキストを見ると、実際に売買にタッチする人たちのための資格だからか、証券アナリストよりも法律・法令、取引所の定款・規則などの面を幅広く扱っている感じがします。金融でも法務に強い翻訳者を目指すならば、大いに役に立ちそうです。(これもわたし自身持っていませんので、ぼんやりとしたアドバイスで申し訳ありません)

最後に証券アナリスト。これはハードルがぐっと上がりまして、一次と二次があり、最終的に資格をとろうとすると最低2年間かかります。一次だけでもかなりのボリュームがあり、証券外務員よりははるかに濃い知識を身につけることができます。

証券アナリストは、実はわたし自身が持っておりますので、次回、少し詳しくお話したいと思います。

わたしの場合、最初は特に資格をとるつもりもなく、証券外務員のテキストをただ読んでいた時期がありました。しかし「試験を受ける」という目標がないと、問題を解くこともせず、文字をただ追うだけになります。そのくせ「分かったような気になる」ので、実に始末が悪いです(笑)。よって、非常に自分に厳しい人以外は、お金も時間もかかりますが、どの資格でも実際に試験を受け、できれば合格を目指すことをお勧めします。


第24回 金融翻訳者になるには(1)

こんにちは。今回から何回かに分けて、「金融翻訳者になり、その後もずっと金融翻訳者を名乗り続ける」ために必要なことを、わたし自身の経験もまじえてお話したいと思います。

どの分野でも、翻訳者になると決めてから専門を決める人と(あるいは同時)、元々その業界で働いていて、その経歴を生かして翻訳者になる人のどちらかのケースが多いでしょうか。わたしの場合は、『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の編纂に関わり、その中で金融と出会い、興味を惹かれ、スペイン語では金融翻訳に需要がないことから、英語で主に仕事を受けるようになりましたので、プロセスはやや特殊ながら、基本的には「翻訳者になると決めてから専門を決めた」ことになります。

わたしと同じく、金融のバックグラウンドがない状態で金融翻訳者を目指している人の場合、不安の第一は「自分の知識で果たしてついていけるのか」ではないでしょうか。

これに対する答えとしては、実のところ、「基本的な知識を一通り身につけた後は、ひたすら努力を継続するのみ」に尽きます。が、それではあまりに抽象的に過ぎるので(笑)、もう少し詳しくお話してみます。

※なおここでは、通常「金融翻訳」に括られることの多い、企業の「会計・経理・財務」は対象外とさせてください。この講座で普段から取り上げているような内容、すなわち
・債券・株式・金利・為替・年金・マクロ経済等の各種レポート
・運用報告書、運用商品説明
・各種リサーチ/レポート
など、狭義の金融・証券翻訳についてお話します。「会計・経理・財務」と「金融・証券」はどちらも「金融翻訳者」に依頼されることの多い分野ですが、本当の意味でスペシャリストになるなら、当然ながらそれぞれの分野で異なる訓練をする必要があります。

よく言われるのは、
1)日本経済新聞や金融業界紙、関連の専門書を読む
2)証券外務員などの資格をとる
3)金融翻訳の講座を受ける
などでしょうか。

まず1)。最近はネット上だけでもかなりの情報量がありますが、特に新聞は、i)常に最新の情報が載っている、ii)内容に信頼が置ける、iii)金融・経済でも様々な分野が網羅されている、という意味で貴重です。

最近では、日経の記事もネット上ならば無料である程度は読めるのですが、途中から有料会員限定の記事も多いため、しばしば歯がみさせられることになります。歯がみだけで済めばいいのですが、翻訳者としての実力にも関わって来るとなれば、けちっている場合ではありません。「資料はお金で買える実力である」とよく言われます。金融翻訳者を名乗りたいなら、まずは先行投資しましょう。これは、お金で買えるモノやサービスすべてに言えることです。

また「日経以外に何を読めばいいのか分からない」という質問が出てきそうですが、それらを自分で探すのも訓練です。金融翻訳では、日々刻々と変わる経済の動きについて行かねばなりませんので、翻訳時に多くの調査を行う必要があります。何かを調査する際に「これについてはこのサイトや本を調べてね」と言ってくれる人はいませんので、その場で自ら開拓しなければなりません。学習段階からその種の訓練をしておけば、必ず役に立ちます。

いずれにせよ、取っ掛かりとしては、やはり日経が一番良いように思います。毎日毎晩読み込んでいれば、そのうち経済全体の動きが分かるようになり、市場ではいま何が注目されているのか、市場の現状はどうなのか、市場は将来をどう捉えているのかが見えて来るからです。これは短期的にも長期的にも、翻訳者にとって非常に大事なバックグラウンドとなります。(逆に言うと、仕事をするようになってからも、日々の情報収集を怠るとあっという間についていけなくなります。例えば本稿執筆時点では、米国の連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル新議長の下院で行った議会証言が注目点です)

とはいうものの、特に仕事を始める前は、自分にあまり関係のない文章を延々と読み続けることはなかなか難しいですよね。「毎日1時間、新聞を読む」などと決めても、そして実際にできたとしても、結局は文字面を追うだけで実は全然理解していない、つまり「やったつもり」で満足してしまいます。後から考えてみれば、わたしもまさにそうでした(笑)。

ただ、これだけでも金融関係のボキャブラリーを「なんとなく」蓄積する役には立ちます。

例えばstock market priceの訳としては、「株価」「(株式)相場」が圧倒的に多く、少し丁寧に言う場合は「株式価格」なども稀に使われます。しかし英語そのままの「株式市場価格」とはまず言いません。

「株式市場価格」でも意味は通じるかもしれませんが、実際には使われていません。このように確たる理由のない用語の使い分けや、ある現象を表す業界独特の表現などは、辞書でもネットでも調べにくいため、とにかくたくさん日本語を読むなかで蓄積して行くしかありません。

また、stock market priceならば辞書に載っている可能性がありますが、例えば米国株式市場の状況をセクターごとに分析する文章で、

The banking sectors weakened following the release of cautious comments by the US Federal Reserve (Fed).

という文章があったとします。この英語では、「銀行セクターは弱まりました」と言っているだけで、「株価」はおろか、「株式」という言葉さえ出てきません。しかし日本語では「株価の話」ということを念頭に置きつつ、

米国の連邦準備制度理事会(FRB)の慎重なコメントの発表を受けて、銀行セクターは軟調な推移となりました。

などとする必要があります。問題は「軟調」「株価/相場下落」「弱含み」といった、stock market priceがweakの場合の日本語表現が頭にあるかどうか。金融の現場を経験したことのない翻訳者がそれらの表現を蓄えるには、関連文章を大量に読むこと。これしかありません。

とにかく読め、ひたすら読め、と言われます。毎日タイトルを追うだけでもかなり違います。ただ、無目的に読み散らかすだけではあまり意味がありませんので、例えば金利なら金利、株式なら株式など分野を選んで、関連する文章があったら絶対に読むと決めるのも効果があります。それでも広過ぎるなら、例えば「米国株」とか「リート(不動産投資信託)」などに絞るのも良いでしょう。

日経ではフォローできないような細かい分野は、ブルームバーグやロイターなどで検索するのも良いと思います。ツイッターでこれらの通信社をフォローしますと、一日に何本か記事タイトルを送ってくれますので、興味深い記事があったら、すぐに読みに行けます。

ブルームバーグやロイターは、原文のタイトルや記者の名前が入っていますので、元の原文を探しやすいという利点があります。

1)について説明するだけで、ずいぶん長くなってしまいました。今回はここまでにして、次回は2)と、できれば3)についてもお話したいと思います。次回をお楽しみに。


第23回 株式ファンドの四半期運用報告書④

こんにちは。前回まで、株式ファンドの四半期運用報告書のうち、「市場概況」「運用成績」「ポジショニング」と見てきましたので、今回は「パフォーマンスへの寄与要因」を訳して、このシリーズを終えたいと思います。

これまで見てきたように、「市場概況」は、経済・市場の全般的な動向や、市場に影響する経済以外の要因(政治やテロ、天候など)についての概説、「運用成績」は、報告対象となる期間(当期)にファンドがどの程度のリターン(利益)を上げたか、あるいは損失を出したか、「ポジショニング」は、どの資産にどの程度のウェイトで資金を振り向けているかを説明する部分でした。今回見て行く「パフォーマンスへの寄与要因」は、個別の株式や債券、戦略がファンドのパフォーマンスに貢献したか、逆に足を引っ張ることになったのか、そうだとすればどの程度か、などの説明をする部分です。

個別の銘柄や戦略が良い/悪い成績だったので、このポジションを①引き続き保有、②積み増し、③削減、④クローズ(解消)するなどの判断につながるわけです。また良好なパフォーマンスが見込めそうな銘柄や戦略があれば、そのポジションを⑤開始/構築することになります。

それでは今回の課題を見てみることにしましょう。

【課題】
The Fund's allocations to international stocks and domestic large-cap stocks contributed to performance, as both strategies outperformed the Fund's benchmark.

まずallocationsは、asset allocation(資産配分、アセットアロケーション)という言葉があるように、資産をどの資産に配分するかということ。クライアントの好みに合わせる必要がありますので、一概には言えませんが、文脈によって「ポジション」「戦略」としたり、あえて訳さなかったり、説明的に訳したり、いろいろです。

international/domestic stocksは「グローバル株式」と「国内株式」。説明的に「世界の株式」「国内の株式」などとすることもあります。「株式」は「銘柄」でもOKです。(「インターナショナル株式」という日本語は、わたしの経験では見たことがありません)

またこのファンドが米国のファンドであるとすると、当然ながらdomesticは「米国の」ですから、「米国株式/銘柄」も可です。

large-cap stocksは「大型株」。

以前も説明しましたが、large-cap equities(大型株)は時価総額が大きめの銘柄ということ。大型株は発行株式数が多いため、流動性が高く(つまり売りたい/買いたい時に売りやすい/買いやすい)、株価が安定しやすいという特徴があります。逆にsmall-cap equities(小型株)は株価が変動しやすいため、運用次第では高いリターンにつなげることができる反面、損失も大きくなる傾向があります。

benchmarkは、ファンドや投資信託が運用の参考としている指標のことです。日本株式の運用時の指標としては、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)、米国株式市場では「S&P 500種指数」「ダウ工業株30種平均」などがよく用いられます。例えば当期のS&Pの成績が+2%のところ、そのファンドの成績が+5%であったならoutperform、+1%であったならunderperformとなります。訳としては、「ベンチマーク」「参考指標」など。

次にstrategies。日本語で「戦略」というと、なにやら大仰で、複雑な操作が必要な感じがしますが、今回の場合はシンプルに「世界の株式」「国内(米国)の大型株」にallocations to=資金を配分、すなわち「購入する」ことを指しています。

ファンドによっても異なりますが、要は、個別の銘柄(例:トヨタ株、Apple社債、米国10年国債など)ではなく、幾つかの資産をまとめて運用する場合に「戦略」と呼ばれることが多いように思います。今回のように「米国の大型株を購入する(ロングする)」といったごくシンプルなものもあれば、複数の資産クラス(株式、債券、為替など)を購入(ロング)/売却(ショート)し、さらにはオプションなどデリバティブ(派生商品)を絡み合わせるなど、非常に複雑な手法も存在します。一つのファンドの中で、複雑怪奇な「戦略」が何十も存在し、それらを理解するだけで一苦労、ということもあります。これについては、いつかお話できればと思います。

さて、内容の理解だけでずいぶんと紙幅を使ってしまいました。以上を頭に入れ、ですます調で訳してみましょう。

The Fund's allocations to international stocks and domestic large-cap stocks contributed to performance, as both strategies outperformed the Fund's benchmark.

【試訳】
・「グローバル株式」戦略および「米国大型株」戦略がパフォーマンスにプラスに寄与しました。いずれも当ファンドのベンチマークをアウトパフォームしたことが背景にあります。
・「グローバル株式」戦略および「米国大型株」戦略がいずれもベンチマークを上回って推移した結果、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与することとなりました。

contributed to performanceは「パフォーマンスに貢献」ですが、運用報告の場合、多くは「貢献」でなく「寄与」という単語を使うことが多いように思います。

また今回は文脈から「プラス方向」の貢献であることが明らかですので、「プラスに寄与」としました。英語でもcontributed positively/negativelyとなどと表現することがあります。negativelyの場合は当然ながら「マイナスの寄与」です。


第22回 機械的に訳すと意味不明!③

こんにちは。運用報告書が続いて、筆者も少し疲れてきましたので(笑)、今回は「機械的に訳すと意味不明」シリーズ第3弾をお届けします。

【課題】
A weakening Sterling periodically is a major concern.

短いのにかなりの難物です。まずもって問題はperiodically。そのほか、A weakening Sterlingも気になります。このように動きを示す表現や比較級が名詞句に入っていると、日本語ではなかなか処理が難しいですよね。しかし上下や増減、頻度を話題にすることが多い金融の世界では、この手の文章が頻出します。マネーが動き、市場が動き、世の中が動くことこそが金融の世界だからです。よってA weak Sterling is a concern.だったらどんなに良かったか、とグチを言うのはやめて、さっそく見て行きましょう。

と、せっかくですのでA weak Sterling is a concern.の訳を考えてみましょうか。

弱い英ポンド/英ポンドの弱さ/英ポンド安/安値圏で推移する英ポンド

懸念となっています/懸念されます/懸念されています/懸念材料です/懸念要因となっています。

こんな短い文章でも、ずいぶんとバリエーションを作れるものですね。主語の訳にどれを選ぶかは非常に微妙ですが、文脈によってどれか一つしか使えない場面もあると思います。よって慎重な検討が必要です。動詞部分も同様。

それでは改めまして課題を見て行きましょう。

A weakening Sterling periodically is a major concern.

まずA weakening Sterling。先程も使った「英ポンド安」は、「英ポンド相場が安値圏にあること」と「英ポンド相場が下落基調にあること」の両方を示すことができるように思いますので、weakening Sterlingの訳として使うことも可能です。

そのあたり、日本語は曖昧といえば曖昧ですので、十分な紙幅があって、しっかり動きを示したい場合は、上記の「下落基調にある英ポンド」とか、「英ポンドの弱含み」「弱含みで推移する英ポンド」「英ポンド安の動き」など、様々な表現が可能。(「英ポンド」だけでなく「英ポンド相場」とした方が、きちんとした感じになります)

concernの部分は、上記で挙げた「懸念されます」「懸念材料(要因)です」などでしょうか。「材料」「要因」は、金融らしい文章にするために非常に便利な言葉ですので、ぜひ使いこなせるようにしておきましょう。

例えば、The returns were boosted by sterling weakness.を「英ポンド安がリターンを押し上げました」ではなく、「英ポンド安がリターンを押し上げる要因となりました」とすると、ぐっと「それっぽく」なります。

さて、最後にperiodicallyです。

辞書を引きますと、第一義として「周期的な、定時の」などとありますが、為替市場の仕組みから言って、英ポンド安が測ったような間隔で起こるとは考えにくいので、「一定の時間ごと」を連想させる言葉はNG。辞書の第一義そのまま、あるいは字面の印象そのままの「機械的な訳」だなあ、と思われてしまいます。筆者は、「英ポンド安がなにかにつけて起こる」と言いたいのであって、例えば「1年ごとにきっちり起こる」と言いたいわけではありません。

このperiodicallyは、周期はともかくも「時おり起こる」の意味。「たびたび、しばしば」の語義を載せている辞書もあります。

なおperiodicallyはその位置から言って、文全体やa major concernではなく、A weakening Sterlingに係っていることが明らかですので、これも注意しましょう。

最後の難題。periodicallyとA weakening Sterlingをどのように日本語の主語としてまとめるか。考えてみてください。上記で候補として挙げた訳を単純に組み合わせるだけでは解決しませんので、検討が必要です。

【試訳】
・しばしば生じる英ポンド安が、大きな懸念材料となっています。
・繰り返し英ポンド安の動きが見られることから、これが大きな懸念材料として挙げられます。

2つめはちょっとしつこいかなという印象ですが、前後の文脈によっては使えると思います。「繰り返し」もちょっと踏み込んだ訳ですので、文脈によっては注意が必要です。

このように短い文章でも本当にいろいろとポイントがあるものですね。上記以外に、幾らでも訳のバリエーションは作ることができますので、限界にチャレンジしてみてください。



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プロフィール

アース(土川裕子)さん

アース(土川裕子)さん
愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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