HOME > 通訳 > マリコがゆく 第61回〜第62回

マリコがゆく
覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!
 
 

油断すると、きます!

このアゴの痛さは...顎関節症。

最初は、何が起こっているのかわからなかったんです。やたらにひどい頭痛と歯の痛みに襲われて、仕事にならなくて困りました。

「なんだ、なんだ?この痛みは一体...親知らずか!?」

親知らずを3本抜いたことのあるマリコ。「おお!遂にラスト1本が!」と歯医者さんに直行。

「いや、そこの親知らずは、もう抜いてありますよ」

ええ?じゃあ、この痛みは何なの?

「もしかして...歯、食いしばってませんか?」

え?食いしばり?

そう言われてみれば...。ミーティングのときの自分を思い出してみると。

「何でこんなしょうもない話が続くの!?」

「こんなバカなことを訳さなきゃいけないの!?」

訳しながらも、「怒髪天をつく」を絵に描いたような形相のわたし。

食いしばってました、食いしばってました!!もう、力いっぱい!

そう。通訳のおかげで、顎関節症になってしまったのでありました。痛いんです、これが。いや、まっとうなミーティングだったらそんなに歯を食いしばることもなかったんでしょうが...。

顎関節症も、ひどい場合は口が開かなくなったりするそうなので、通訳者は要注意です!お仕事できなくなっちゃいますからね!

口が開かなくなるほどひどくはなかったんですが、口を開ける度に、ものすごい痛みに襲われるんですよね。こうなると、仕事は苦行です。

結局どうしたかといいますと...。即効性のある解決策があるわけじゃないので、気長に治しました。「しばらくしゃべらないで過ごすのがいい」と言われても、それじゃ仕事にならないですからね。

歯形に合わせて作ったマウスピースをはめて寝ていました。寝ているときにもミーティングの夢を見て食いしばっていましたから。朝になるとカポッと外すんですが、これって、かなりセルフイメージダウンです...。あとは、整体に通って、なるべく無理をしないで過ごすようにし、なんとか回復しました。

でも、ハードな仕事が続くと、いまだに顎にいや~な予感が走ります...。

用心、用心!

 
 

「通訳しながら、ハッピーであること」

燃え尽きていた期間に、このことを考えるようになりました。それまでしていた仕事といえば、企業買収やら、ユーザー全員大反対の基幹システムの導入やら、ダークな社内政治やら...。

そう、ブラックなマリコだったのです。

そういう仕事を楽しめるタイプなら問題ないんですが(いや、それはそれで人間的に問題がありそうですが...)、やりながら悶々としていたのです。

「この仕事の通訳って、誰かの役に立ってるの?」

「役に立つっていうより、むしろ人を苦しめる手助けをしているような...」「これじゃわたしって、悪の手先?」

そう思いながらも、「そうやって苦しむのも仕事のうちなのか」と自分を納得させようとしていました。そもそも、「仕事というのは苦しくてつらいもの」と最初から思ってたんですよね。仕事をしている自分がハッピーかどうかが問題になるなんて、思ってもいなかったんです。

「どうやったら自分がもっとハッピーに生きられるのか?」

この視点が、わたしにはスコーンと抜け落ちていたんです。むしろ、考えること自体が、まるで悪いことのように思ってました。罪悪感すら感じるという、なんとも真面目な人間だったのです。あ、今でも基本は真面目です、念のため。

ただ、考え方が変わりました。

「自分がハッピーに生きられるようにするのも、自分の責任」

そう思うようになったんです。

どんな仕事でも、ハッピーに生きられる道はあるはず。自分が興味を持って、やりがいを感じられる仕事をやれば、ハッピー通訳でいられるはずなんです。

実際問題として、そんなにうまく都合のいい仕事は回ってこないもの。

「だったら、自分がやりたい仕事が自分に回ってくるような仕組みそのものをつくっちゃえばいいんじゃない?」

そう考えて、てくてく、てくてく、歩いてきました。時間はかかりましたが、自分の価値観に沿った仕事ができるようになってきました。もう、ブラックなマリコじゃありません!

もし、いまの仕事で悩んでいる方がいたら、どうかそれを「当たり前」と思ってしまわないでくださいね。

みんなハッピー通訳になっていいはずなんですから!

 
 

「通訳者には、不機嫌な女が多い」

自分のことかと思ってドキッとした方、要注意です!鬼のような顔で仕事をしていないか、今すぐ鏡でチェックしたほうがいいですよ!

通訳コーディネーターだった頃、「どうして女性の通訳者って、みんなあんなにいつも不機嫌なの?ああはなりたくないなあ」と常々思っていました。ところが、自分が通訳者になってみれば、不機嫌街道まっしぐら!

仕事を続けていると、ある程度は仕方ないのかもと考えるようになりました。資料と勉強に追われる、すごいプレッシャーの中での仕事。周囲の無理解。しかもフリーランス。...そんな条件が重なれば、まあ、性格がゆがんでいくのも想像がつきます

そしてもうひとつ。通訳者は、どこまでいっても「部外者」。その距離感が楽で心地いいっていう部分もありますが、自分はけっして主役じゃないんですよね。疎外感はやっぱりつきまとうんです。

通訳技術が磨かれる喜びというのは、たしかにあります。むなしいミーティングの通訳が多い中、技術の向上だけに目を向けて、そこに喜びを見出すことで自分のモチベーションを保つようにしていました。でも、それってなんだか悲しいですよね。

数を多くこなしても、通訳者としてやりがいを感じられる瞬間がそれに比例して多くなるというわけでもないんです。やりがいっていうのは、やっぱり、そのときの自分のパフォーマンスや、技術的なことだけでは得られないんですよね。つきつめていくと、どうしても「何の通訳をしているのか」「何のために通訳をしているのか」ということが問題になってくるんです。

「会議通訳者として大御所になりたい」という目標を持っている人もいると思います。業界の中でのポジションがモチベーションになる人もいるでしょうし、難しい仕事をこなせるようになることで高い満足感が得られる人もいるでしょう。でも、わたしは「それはちょっと違うかな」と思うんです。

わたしは、通訳していて自分がハッピーじゃないと、嫌なんです

「あらゆる分野を経験して、通訳者として登りつめたい」というより、自分の価値観に沿った仕事ができること、「この仕事をしていてよかった」と思える瞬間がたくさんあること。そっちのほうがやっぱり、わたしにとっては大切なんですね。

 

 
 

通訳者の連帯感って、強いと思いませんか?

どんなお仕事でも、「同じ仕事をしている」となると、やっぱり親近感が湧きますよね。共通の話題も多いし、仲良くなりやすいものです。通訳者の場合、特にそれが強いような気がします。各地で迫害されているからでしょうか?

「通訳者はキリシタン」

そんな言葉が一瞬頭をよぎります。

もともと一匹狼的な職業だっていうことが、まずありますよね。だからこそ、「はぐれもの的連帯感」が強烈なんじゃないでしょうか。通訳者と聞くと、それだけでなんだか・・・。

「おおっ!同士発見!!」

といった感動があります。

それに、通訳者の苦労の質って、独特ですよね。それをわかりあえるのは、やっぱり同じ通訳者です。

おまけに、同時通訳を一緒にやるときなんかは、ものすごーく追い込まれている状況下で協力し合うわけですよね?いやでも連帯感が芽生えますって!愛すら芽生えても・・・いいはず。


『ブースで芽生えた愛の奇跡』 

『ウィスパリング・ロマンス』

通訳者を主人公にしたそんな恋愛小説が台頭しないのが不思議でなりません。「通訳ロマンスもの」とか、そんなジャンルがあってもよさそうですが。あの、どなたか書いてみませんか?
これほど同士愛にあふれた(?)通訳者たちですが、団体として団結していくっていう話は、残念ながらあまり耳にしませんよね。団結したら、どんなことになるんでしょうか?

万国の労働者ならぬ、「万国の通訳者、団結せよ!」

そんなスローガンでも掲げてみましょうか。怒号渦巻く大会になりそうで、ちょっとこわい気もします・・・。いや、そういう自分が一番暴れてたりして。

「通訳者の団結を訴え、都内某所で開催された第1回万国通訳者大会では、日頃の憤懣をここぞとばかりにぶちまける通訳者が続出。あまりの熱気に主催者もたじろぐほど。一部が暴徒化して破壊行為に及び、近隣からの苦情が相次ぐ始末」

うーん。そんな新聞記事になりそうです。

大会じゃなくて、和やかなお茶会だったら大丈夫でしょうか?

 

 
 

げほごほ。

通訳者が風邪をひくと、なかなか治りません。

考えてみれば当然ですよね。なんと言ったって、しゃべるのが仕事なんですから。おとなしくしていればすぐに治る程度の風邪でも、仕事でしゃべり通しのおかげで、こじらせてしまうこともあるんです。

「一括移行にはかなりのリスクが伴います・・・げほっ

「やはり段階的に移行していくアプローチが望ましいでしょう・・・ごほっ

「げほっげほごほっ!!」

なんていう具合に、ウィスパリングしてるんだか、風邪菌撒き散らしてるんだか。ありがた迷惑な存在です。

何年か前のことですが、ひどい風邪をひいた状態で長時間ウィスパリングをしていたことがあります。熱も39度近くて、話す言葉より咳の方が多い有様。おまけに、ウィスパリングならぬシャウティング。

当然ながら、こじらせました。何週間か咳が治まらなくて、喘息の人が使う吸入薬をもらう始末。吸入補助器までついているんですよね。

「喘息?吸入?なんか作家チック~。これって文壇の薫り?吉行淳之介みたい?万年筆と原稿用紙とか並べちゃう!?」

げほごほやりながらも、喜んで吸入補助器をデジカメ撮影するあたりが、マリコがマリコたる所以です。

いや、喜んでる場合じゃなくてですね。そんなことじゃ仕事にならないわけです。通訳をする以上、風邪をひいたりはしないようにちゃんと気をつけているんですが。

そもそも、その風邪って、ウィスパリングした相手からもらっちゃったんですよね・・・。

そうなんです。ウィスパリングのときって、こちらも近くでげほごほやって、通訳される相手にとってはいい迷惑ですが、逆に相手が風邪をひいていたりすると、集中攻撃を受けるようなものですね。ウィスパリングだから、離れるわけにもいかないし。

「風邪菌浴びまくり耐久戦」

そんな事態になってしまいます。風邪をうつされずに終えられるかどうかのほうが、きちんとウィスパリングできるかどうかよりも重要問題になってしまいます。

極度の接近戦での集中砲火なだけに、なかなか逃げ切れなかったりするんですよね・・・。

こればかりはなんとも。げほごほ。

 


↑Page Top

プロフィール

寺田真理子

寺田 真理子さん
幼少時から中学までを、メキシコ、コロンビア、ベネズエラにて過ごす。東京大学法学部卒業後、国際会議コーディネーターを経て、通翻訳者デビュー。その後、数社にてインハウス通翻訳を経験し、2004年にフリーランス通翻訳者として独立。出版翻訳も手がける。