HOME > 通訳 > マリコがゆく 第56回〜第60回

マリコがゆく
覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!
 
 

フリーランス通訳の大変なところ。

なにしろ、「フリーランス」通訳ですから。すなわち、何の保障もないんです!

収入は不安定だし、お仕事がタイミングよく入ってくれるとも限りません「あ~、ここにこのお仕事を入れちゃったから、こっちのお仕事がとれない~!」なんていう残念なことも。そうかと思えば、その月のメインの収入源として当てにしていたお仕事がキャンセルになって、スケジュールが大きく空いちゃったり。もちろん、それでも補償はありません。

営業だってしなきゃいけません。社内のように、黙っていても、嫌でもお仕事があるわけじゃないですから。エージェントさんに登録したり、あるいは個人でお客さまを探したりとか。マリコの場合は、新聞を読んで、「ここはもしかしたら、通訳の需要が将来あるかも!」というところに通訳の押し売りまでしてました。

「こうすれば御社の国際化が進んで、定期的に通訳の必要が生じます!国際化を進めましょう!そしてそこには通訳としてわたしがセットで!

・・・余計なお世話です・・・。

お客さまもいい方ならいいですが、困ったお客さまの場合でも、エージェントさんが間に立って守ってくれるわけじゃありません。通訳条件も自分で整えなきゃいけないし、現場ではよそ者だし、立場は弱いですよね。お支払いのときに金銭トラブルなんかがあるとものすごいストレスですが、そういうトラブル処理も自分でしなくちゃいけません

お仕事の請求書作成や入金確認もしなくちゃです。数字に弱いわたしには、このあたりは鬼門です。確定申告の時期は、もうパニックです。

せっかくいいお客さまとの出会いがあっても、「結局はこの場限りのお付き合いだなあ」なんて、さみしくなってしまうこともあります。しがらみがないぶん、継続的な人間関係がまわりにないんですね。

それに、自己管理!風邪をひいて休んだりするわけにいかないですからね。自分が倒れても代わりがいません。一度穴をあけたら、お金がもらえないだけじゃなく、次のお仕事だってもらえなくなっちゃいます。このプレッシャーも相当なものがあります。

こんな具合に、フリーランス通訳もやっぱり大変なのです。

みなさんは、社内通訳とフリーランス通訳、あえてどちらかを選ぶとしたら、どっちがいいですか?

 

 
 

社内通訳に比べて、フリーランス通訳のいいところってなんでしょう?

それはまず、お仕事を選べること。社内通訳だと、「こういう気の滅入るような話は通訳したくないなあ~」とか、「このお客さまって、インテグリティに問題あるんじゃ・・・」なんていうときでも、「その部分だけやりません」というわけにはいかないですからね。全部まとめて引き受けないといけませんが、フリーランス通訳なら、やりたくないお仕事はお断りして、自分の興味のある分野のお仕事を進めることができます。自分がご一緒したいと思えるお客さまを選んでいくこともできます。

とはいっても、一度お断りすると次からはお声が掛からない・・・なんていうこともあるわけで。自分の進みたい方向性と、収入のバランスを考えなきゃいけないので、このあたりの舵取りが悩むところです。

とはいえ、組織に所属するのが苦手な人にとっては、このしがらみのなさはたまりません。ややこしい人間関係に煩わされて精神的に消耗することもないですし。組織って、どうしても組織であるためにうまくいかないことがつきものですよね。そんな「組織であるがゆえのしょうもなさ」に振り回されずにすむんです!

それに、面白そうな、変わったお仕事って、たいていは単発で発生するんですよねまあ、社内でしょっちゅう風変わりな講演やイベントばっかりやっているわけにはいかないでしょうから、当たり前といえば当たり前なんですが・・・。

毎回新しい世界に入っていくのは、大変だけれど楽しいものです。それだけ自分の世界が広がりますし、1回1回のお仕事にかける意気込みも強いし、充実感もあります。

会社の中で迷子になったり、信じがたいようなおバカさん発言やわがまま放題・・・そんな強烈なキャラで覚えているお客さまが多いのは社内通訳でのお仕事ですが、お仕事自体が面白かったり、内容が強烈だったりして印象に残っているのは、やっぱりフリーランス通訳としてやったお仕事のほうですね。

こうやって見てくると、「しがらみなく、好きなお仕事を充実してできるんだから、やっぱりフリーランス通訳っていいよね」というお話になりそうですが・・・。

とはいえこれはこれで、また大変なのです。

 

 
 

社内通訳でとても困ること。それはやっぱり、通訳という仕事への認識の低さでしょう。

これはもちろん、通訳の仕事をしていく限りずっと戦っていかないといけないものではあります。でも、社内通訳だと、これが毎日なんですよね・・・。毎日となるとやっぱり、精神的なストレスが大きいです。何度お願いしても資料はくれないし、休憩もさせてもらえないし。一人でぶっ通しで一日中同時通訳をやらせて当たり前という世界。

「だから、わたしは機材じゃないのよ!!」

そんなふうに叫びたくなる日々が続きます。というより、実際に叫んで暴れたりもします・・・。

フリーランスだと、直接個人でとっている仕事じゃなければ、資料や休憩時間その他の交渉はエージェントが代行してくれますよね。でも、社内だと、自分で自分の通訳環境を守るための交渉もやらなきゃいけないことになります。

通訳する主な相手である外国人上司との相性も問題になります。通訳するっていうことは、常に相手と至近距離で一緒にいることになりますからね。接近できてうれしいような人は、まあ、いません。ウィスパリングしながらも微妙に離れていったりして・・・。

困ったことに、手のかかる上司も多いんですよね。ランチに行ってメニューを全部片っ端から説明させた挙句、「最初のを忘れちゃったから全部もう1回教えて」とか。やっとのことで注文したら、隣の席の人が食べているものを見て「あれがいい!やっぱりあれにする!」とか。上司というより、ただの駄々っ子です。

「わたしは通訳?それともあなたのお世話係?」

わからなくなることもしばしばです。

そして、コミュニケーションギャップ

「どうして訊かれていることにちゃんと答えないのー!あーあ、また怒らせちゃった!」

外国人上司の質問に対して、意味不明な発言の数々を繰り返す日本の部下の方々に翻弄されます。

トドメをさすように、席が・・・隔離なんです。ひとりだけぽつんと離れた通訳者の席。もしくは、少しでも離れていたい上司と二人で陸の孤島。困ったことがあっても訊ける相手がいなかったり。そしてしょっちゅう困ってばかりの上司に呼びつけられる羽目に・・・。

うーん。じゃあ、フリーランス通訳はどうでしょう?
 
 

いいことがたくさんあるように思える社内通訳。でも、もちろん、困ったところもあります。さて、どんなところでしょう?

まず、「社内通訳」というくらいですから、「社内」の人間なんですよね。フリーランスの通訳者に時々見られるような、「ワタクシ、通訳ですから関係ございません。勝手にあそばせ。ツン!」なんて態度をとるわけにはいきません。

会社って、どうしても細々とした面倒な手続きがつきものなんですよね。何かを申請するためにいろんな部署に連絡をとったり、書類を記入したり。ややこしい人間関係だって、まとめて引き受けなきゃいけません。「今日は誰とランチに行ったらいいんだろう」とか、そんな悩みももれなくついてきます。組織に所属する人間としての諸々があるんですよね。まあ、それもお給料のうちっていうことでしょう。

でも・・・通訳者って、あまり社会適合性がなかったりしませんか?あの、わたしだけじゃないですよね?ひとつの組織に所属するっていう、そのこと自体が苦痛になっちゃうんですよね。

しかも、通訳として脳を使っていると、なんだかその他の部分が退化してしまう気がします。よく、大学教授や技術者が、かなり社会性が欠落していることがあるでしょう?それに近いものがあります。なんていうことのない、ちょっとした社内の手続きひとつでも、それがものすごくストレスになってしまうんです。

そして、長く同じ社内にいると、飽きてくるのも否定できません。更に困ったことに、「文脈に頼って」通訳するようになっちゃうんですよね。純粋に言葉として理解できるんじゃなくて、「背景事情がわかるから通訳できる」という状態になってしまいます。

実際には、そういう事情がわかってはじめてちゃんと通訳ができるということも多いもの。雇う側にしたって、こういう通訳者は事情をわかってくれているありがたい人材です。でも、これって、通訳者本人にとってはちょっと困った事態です。

「ここでは通訳者として評価してもらえるけど、他のところで通用するのかな?」

そんな不安に駆られます。

それに、もっと困ったことがあるのです・・・。

 

 
 

社内通訳のウラの楽しみを大公開しちゃいましょう。

まずは、なんといっても人間観察でしょう一度お会いするだけなら、「いいクライアントさんだったな」くらいで終わってしまうものですよね。でも、社内通訳だと、何度もご一緒して、同じ人のいろんな顔を見ることができるんです。

たとえば、いつも満面の笑みを浮かべている人が、ミーティングで追い詰められて、青ざめてキレてしまったり。さっきまで感じがよかった人が、上司がいなくなったとたんに豹変して暴言を吐いたり。

「あの人が、こんなリアクションをすることもあるんだ!あの人って、こんな顔もあったんだ!」

そんな思いがけない発見の連続です。

特に、通訳者だと、第三者としてその場に入って、滅多に見られないものや聞けない話を聞いて、しかも両方の当事者から裏話が聞けてしまうというおまけつき。

これって、友達同士をセッテイングして、後で両方に「ね、どうだった?どうだった?」って訊いてみる・・・それに近い楽しみがあります。あれ?なんか違いますか?

それに、上司を操れる・・・というと人聞きが悪いですが、「上司あしらい」が上手になります。ミーティングを通してものの考え方やツボがよくわかるので、自分が何か主張しようというときに、「こういう論理展開でいけば納得するな」とか、「この話を持ってきて、その流れでいけばOKするだろうな」と、観察した情報をフル活用して主張を通せるようになります。

通訳者の意見をやたらと聞きたがる上司もいます。社内の人の能力や、仕事を任せても大丈夫そうかについて、意見を求められることもあるんです。「わたしはこの人と個人的に仲がいいから、ひいき目に見ている部分があるかもしれないですよ」と前置きをしたりして、努めて公正な意見を言うようにはしていました。でも、フィクサー的な楽しみ方をしようと思えば、「ウラ人事権」を持つくらい、できちゃうんですよね。

英語を使う他の仕事につきたいと思った場合も、通訳のポジションから移行することができます。社内のことがわかっているし、普段からマネジメントと仕事をしているので、仕事が評価されるとそういうお話があることも、通訳にこだわらず、英語を使って働きたいという人にはいいかもしれません。

じゃあ、社内通訳の困ったところは?

 


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プロフィール

寺田真理子

寺田 真理子さん
幼少時から中学までを、メキシコ、コロンビア、ベネズエラにて過ごす。東京大学法学部卒業後、国際会議コーディネーターを経て、通翻訳者デビュー。その後、数社にてインハウス通翻訳を経験し、2004年にフリーランス通翻訳者として独立。出版翻訳も手がける。