HOME > 通訳 > マリコがゆく 第51回〜第55回

マリコがゆく
覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!
 
 

社内通訳のいいところ、まだまだあるので見ていきましょう。

まず、いろいろなスタイルの通訳ができます。1対1のミーティングや、5人くらいのチームミーティング、30人くらいの部門ミーティング。100人規模のプレゼンなどなど。人数のバリエーションも多いし、パーソナルな事柄や人事、マネジメントなど、内容も多岐に渡ります。

通訳をする相手がだいたい決まっているのも、「ああ、またこいつか」とうんざりします・・・もとい、「またご一緒できる」という安心感があります。1回きりのお仕事の場合は失敗したらそれまでですが、社内通訳なら次に頑張って信用回復できます。リベンジのチャンスがあるんですよね。慣れたお客さまが相手だと余計な緊張もしないで済むので、のびのびとやれますし。

社内の人間関係がわかってくれば、資料を誰からもらえばいいのかもわかって助かります。資料がないのは恐怖ですからね。「この人に言えばきっと手に入る」という安心感は大きいです。くれなかったり、しますけど・・・。

シニアマネジメントレベルの人と仕事ができるのも大きなメリットです。一社員だったら、なかなかそういう機会はないでしょうから。重要な話し合いの場に立ち会えるし、そういう人たちのものの見方、考え方に触れることができる)んですよね。ロジカルシンキングの練習です。ただし、絶対マネしちゃいけないような見本も、ゴロゴロいるので要注意!

方向音痴にとっては、決まったところに毎日行けばいいのもありがたいです!まあ、なかには移動しまくりの出張しまくりで、全然このメリットを感じない会社もあったりはしますけどね。

そして、方向音痴の上に数字音痴のわたしにとっては、確定申告の面倒がないのも助かります。フリーであちこちからお仕事をいただいていると、書類の管理だけで大変です。確定申告の時期は、領収書や支払調書を前に泣きそうになります・・・。他にも、社内通訳にはこんなウラの楽しみがあります。

 

 
 

通訳と言ってもいろいろですが、社内通訳とフリーランス通訳について、ちょっと考えてみましょう。

それぞれどんな仕事で、どんないいところや困ったことがあるんでしょう?

まず、社内通訳。文字通り、社内での通訳です。正社員の場合もたまにありますが、派遣や契約社員の形態が多いです。社内で日本語ができない外国人がいる場合、専属の通訳としてついたり、部署に所属して通訳をしたりします。まあ、時々よそに貸し出されたりしますが・・・。

レベルによって仕事はさまざまで、秘書兼務だったり、逐次通訳だけだったり、ウィスパリングや同通までやったり。ウィスパリングができるかどうかで、選択肢の多さに差が出ます。

社内通訳のいいところは、なんと言っても収入の安定!単発の場合に比べて1日あたりの単価は下がりますが、単発だと毎日仕事が入るとは限りませんからね。

次にうれしいのは、継続性。フリーランスだと、どうしてもトピックが毎回バラバラ。あるときはIT、あるときは福祉、そしてまたあるときは製薬・・・という具合にその都度準備が大変なのに加えて、せっかく覚えたものをまた使う機会がないのはやっぱり残念なもの。それに比べて、社内通訳はトピックに継続性があるので、学んだことを次に生かせます。継続性がある分、準備もフリーの場合に比べればラク・・・かな。

業界知識も、継続することで得られます。たいていは通訳以外に翻訳もやるので、そこで勉強しながらちょっとずつ知識を身につけていけます。しばらくやっていれば、わたしのように超アナログ人間でも、システム開発とかがなんとなくわかるようになります。

一定の仕事量があるのも、スキルを伸ばすにはいい環境です。フリーで仕事が続かなかったりすると、実際に通訳できる機会がすごく少なくなってしまいますが、その心配がありません。

フリーでやっていたらなかなか回ってこないようなお仕事も、社内通訳だと任せてもらえます。営業活動をたくさんし、通訳エージェントに信頼されてやっと回ってくるようなお仕事も、あっさりやらせてもらえます。というより、やりたくなくても、やらされます!

まだまだあります、社内通訳のいいところ!

 

 
 

あれ?さっきまでの話はどこいっちゃったんでしょう?

たまにいるんです、こういう「スライダーさん」。勝手にわたしがそう名づけたんですが、こういう人って、話し始めてからトピックがどんどんスライドしていっちゃうんです。

「コスト意識を強く持たなきゃいけないってことは、そういえばこの間のミーティングで人事の手続き変更があがっていたけど、上からの承認がなかなかとれなくて、こっちの作業が止まっているっていうのもあるんだよね。リリースのスケジュールってどうなっていたか・・・あ、そうだ、監査の対応も考えないといけないし、各チームのスコープがはっきりしてないのが問題だよね」

こんな具合に、次から次へとスライドして、聞き手も通訳も置いてけぼりです。

この手の人の通訳は大変ですよ。だって、どの話もきちんと完結してないんですから!

原文が単語と文章の切れ端だから、訳したものをきれいな文章に仕上げるのはかなり無理があります。全部訳していったら、聞いている人はわけがわからないだろうし。そもそも原文がわけがわからないんですから。

かといって、まともに完結した、意味のあるところだけ訳そうとすると、ずっと待っていて終わっちゃうことになるんですよね。

「結局、この人は何が言いたいのか」

スライダーさんの場合は、これをつかむしかないんですよね。

人によっては、スライドしながらいろんな種類の話を10通りぐらいしても、結局は全部ひとつの話に集約できたりするんです。でも、ずっと聴いていて、最後になってやっとそれがわかったりするから、意を汲んで訳すも何もないんですけどね・・・。

何回も同じ人の話を訳す機会があれば、話し方の癖だけでなく、「ああ、こういう考え方がバックにあるからこういう意見が出てくるんだな」っていうのがわかってくるので、余裕を持って訳せるようになります。

というよりも。

「そんなしょうもないことを考えてるから、こんなおかしなことを言うのね」

ということがわかります・・・。

 

 
 

「燃えてるなあ~!」っていう感じがします。

同時通訳のときのカロリー消費って、結構あると思うんですよ。

だって、しゃべり続けているわけでしょ?それに、脳を酷使しているわけだから。「脳の重量は体重の2%に過ぎないのに、消費カロリーは全消費量の25%にもおよぶ」と書いてある本を読んで、「でしょ、でしょ!?やっぱりー!!」と思ったわたしです。

カラオケで、カロリー表示が出るのがありましたよね?1曲歌って何キロカロリー消費したかがわかるやつ。激しい曲を歌って消費したつもりでも、バラードを歌った人のほうが意外に消費カロリーが多くてくやしかったりする、あれです。あんなふうに、通訳中の消費カロリーが表示されたら、俄然やる気が出ると思うんですが、いかがでしょうか?

「もうつらくなってきたよ~!あ、でももう140キロカロリー消費してる!やった!もうちょっとで150!!よ~し!」

それなら、その数値を励みに頑張れそうな気がします。

それに、カロリー表示が出れば、通訳の疲労度もお客さまに理解してもらいやすくなるのでは?


「通訳できる限度は1日当たり300キロカロリーまで」

そんなガイドラインも定めて、違反した場合は罰金とかにすれば、無茶な通訳リクエストも避けられるんじゃないかしら?どこかのメーカーさんが開発に名乗りを上げてくれないものでしょうか?

そうしたら、通訳ダイエットとかも流行ったりして・・・。

「今年の夏は知的に!通訳ダイエット!!」

「通訳者のスリムな身体のヒミツ」

そんな通訳ダイエット特集が女性誌で組まれるようになれば、通訳業界がもっと華やいだ感じになるかもしれません。

あ!でも、ひとつ問題が・・・。

消費する分、やっぱりちょこちょこ途中でエネルギーを補給します。


「脳に糖分が足りない~!」


そう実感するので、甘いものを食べるわけです。即効性がありますからね。このカロリーが結構すごいことになったりもして、余裕で消費カロリーを上回ってしまうんですよね・・・。

これじゃ通訳ダイエットにはなりません・・・。


そんなわけで・・・燃えてるはずのわたしは痩せません。

 

 
 

通訳という仕事柄、食べちゃいけないものがありますよね。

特にウィスパリングをする場合、にんにく料理はご法度です。カレーやキムチなんかもやめたほうがいいでしょう。なにせ、相手のそばにくっついて息を吹きかけ続ける仕事なわけですから(ここだけ読むと「通訳って一体どんな仕事なんだろう!?」と思ってしまいます・・・)。通訳しているときに、にんにく臭かったりしたら最悪じゃないですか。

にんにく料理を食べてしまったら、もちろん、歯を磨いて、ブレスケアグッズなんかも使って何とか被害を最小限にとどめようと頑張ります。でも、瞬間的には抑えられても、なんとなく身体の中でにんにくの存在感が消えないと思いませんか?やっぱり食べないに越したことはないですよね。

とは言いながら。社内通訳で長期になって、上司ともすっかり馴れきった間柄になってしまうと、何の遠慮もなく食べてしまったりするんですが・・・。午後イチでウィスパリングをしなきゃいけないミーティングが入っているのに、ランチに思いっきりにんにくの効いたガーリックパスタをおいしくいただいてしまったり・・・。

被害を最小限にとどめたつもりでも、ウィスパリングの最中に自分でも気づくことがあります。

うわ~!なんかわたし、にんにく臭いかも!やっぱりあのガーリックパスタはまずかった!ごめん・・・!」

心の中で謝りながらも、ウィスパリングをやめるわけにはいかないので、にんにく臭い息を吹きかけ続けます。もう、我ながら最悪です。

そんな失敗で申し訳ない思いをすることがあるわけですが。時々、思わぬ逆襲を受けることもあります。

あるミーティングのときのこと。ウィスパリングをしている時に、いきなり上司が振り向いてきたんです。訊きたいことがあったらしいんですが、至近距離でにんにく臭い息が顔にかかって・・・。なんか、こう、もわっと・・・。

「や、やられた・・・!」

一瞬、通訳は止まってしまいました・・・。

通訳するほうも、されるほうもやっぱり、食べちゃだめ!

 

 


↑Page Top

プロフィール

寺田真理子

寺田 真理子さん
幼少時から中学までを、メキシコ、コロンビア、ベネズエラにて過ごす。東京大学法学部卒業後、国際会議コーディネーターを経て、通翻訳者デビュー。その後、数社にてインハウス通翻訳を経験し、2004年にフリーランス通翻訳者として独立。出版翻訳も手がける。