HOME > 通訳 > マリコがゆく 第41回〜第45回

マリコがゆく
覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!
 
 

「あれ?せっかく訳してあげたのに、なんでポカンとしてるんだろう。聞いてなかったのかなあ?もう~、この人ってばマネージャーなのにいっつも上の空なんだから!ホントにしょうがないなあ。もっとしっかりしてもらわなくっちゃね。まあ、仕方ないから、もう1回訳してあげよう~っと!」

ミーティングのときに、外国人の参加者にウィスパリング通訳をする場合。社内通訳で、「日本人の部下が大勢参加していて、ひとりだけ外国人のマネージャーにウィスパリング通訳をする」という状況がよくあります。相手の表情を見ながら、「ちゃんと理解しているかな?」と確認しながら通訳を進めます。「うん、うん」とうなずいていれば安心。難しい顔をしていると、「これはわたしの英語に問題があるのかしら?それとも内容が気に入らないのかしら?」と悩みます。

たいていは何らかの反応があるものです。だけど、ときどき反応がなくて、ただポカンとされてしまうことがあります。そこで再度通訳するんですが、それでもまだ相手はきょとんとするばかり。

「もう、なんなの、この人?仕事する気あるのかしら!?」

そう思って憮然としていると、なぜか他の参加者までみんなきょとんとしてわたしを見ています。そしてその中のひとりがおそるおそる、教えてくれるるのです。

あの・・・日本語でしたよ

そうです。日本語を英語に訳すはずが、なぜか日本語を日本語に(?)して、外国人にウィスパリングしていたのです。そりゃ、きょとんとされますよね。

長時間通訳を続けてお疲れモードになると、こういうことがたまにあります。しゃべりかける相手を間違えていたり、通じないのに必死で何度も繰り返して、「ちょっと、聞いてんの?」って怒り出したり。あ、もちろん、逆バージョンで「日本人に英語で話しかけちゃう場合」もあります。

そういうときの「きょとん」とした顔は、見事なまでに外国人も日本人も共通なんですよねえ。そしてわたしが気づいた後に、みんなそろって爆笑するところもおんなじです。

でも、わたし、知ってるんです。これをやっちゃうのは、わたしだけじゃないのです。「やっちゃった」という話を、結構いろんな通訳者から聞いています。ということは、お客さまが目撃するチャンスも多いかも・・・?

目撃したときは、「ああ、そろそろお疲れなんだな」と思ってやっていただければありがたいですよね・・・。

 

 
 

通訳をするのにも、「訳しやすい人」と「訳しにくい人」がいますよね。

どういう人が訳しやすいかは、相性の問題もあるので人それぞれ違いがあるでしょう。それでも、通訳者にとって「訳しやすい人」って、ある程度共通していますよね。

どういう人かというと、まずは「話の内容がわかりやすい人」ですよね。そして、「論理的に話ができる人」じゃないでしょうか。通訳のほうで内容の「編集」をしなくてすむので、とても助かります。そのまま訳せばいいんですから。こういう人はたいてい言語能力が高いので、意味がわからなくて質問したりしても、適切に言い換えをしてくれます。

英語のスピーカーだと、英語の発音が聞き取りやすいというのも大事なポイントですよね。通訳にとって恐怖の(?)インド人英語とか。中国系のスピーカーも、やっぱり独特のアクセントがありますし。

「訳しやすい人」には、断然欧米系の人が多いですね。やっぱり、訓練されているからでしょうか。それに比べ、日本人の「訳しやすい人」には残念ながら滅多にお目にかかれません。

「いや、この間ね、えー、金曜日。金曜日に。いや、結論から言います。金曜日に。あ、やっぱりいまのなしです。金曜日に・・・」

こんな報告を受ける上司が、わたしの横で通訳を待っています。でも、この発言でわたしに一体何を訳せというんでしょう?そのまま訳そうものなら、かえって混乱させてしまうどころか、わたしの通訳能力まで疑われてしまいます。

流れるような話し方をしてほしいとは言いません。ただ、せめて、「何が言いたいのか」をはっきりさせてもらえないと、こっちも商売あがったり、なのです。言いたいことがないのにやたら言葉数だけは多いなんていうのも、いただけません。

「訳しやすい人」ではなくても。どんなにつたなくても。一生懸命何かをやっていて、それを伝えようと頑張っている人には、「精一杯伝わるように通訳してあげよう」と思えるものですよね。

 

 
 

通訳のみなさん、通訳をするときに「ぶっちゃけ」って使っていますか?

この言葉がすごく嫌いなんです。だって、なんだか語感がきたないじゃないですか。汚れたものをぶちまけられるような感じがしませんか?大きなゴミ箱をひっくり返して、中のゴミを力いっぱい散らかしているような。そんなイメージが浮かんでしまいます。

「通訳たるもの、そんなきたない言葉を使ってはいけない!」

そう思っているので、使いません。もちろん、普段も使わないように気をつけています。だって、普段から使っていると、ついうっかり、出ちゃうでしょ?(じゃあ、普段の言葉遣いが美しいのかと言われると困りますが・・・。そのへんのツッコミはなしにしてくださいね!)

そんな抵抗にも関わらず、どんどん「ぶっちゃけ」は浸透してしまいまして。渋谷にいそうな若者が使う言葉から、おじさまたちまでもが広く使う言葉に育ってしまいました。

困るのは、インパクトの強さです。「ぶっちゃけ」と言われてしまうと、なんだかそれに取って代わる言葉が見つからないのです。この言葉が出てくる前は、「本当のところを言いますと」とか「実を言えば」とか、そういう言葉を使っていたんですよね。でも、「ぶっちゃけ」の持つ「暴露感」が出ないのは事実です。

お客さまも結構使うんですよね。「まあ、ぶっちゃけたところを言えばですね~」なんて言われると、ついこちらも「ぶっちゃけ」を使いそうになってしまいます。

通訳のときに「ぶっちゃけ」を当たり前のように使う通訳者もいるそうですが、わたしはやっぱりこれには反対です。日本語のアウトプットの質がすごく損なわれちゃうと思うんですよね。せっかくの通訳も、「ぶっちゃけ」の破壊力で台無し、みたいな・・・。

将来、こういう言葉がどんどん浸透していくと、通訳のときに使われる言葉も変わっていくんでしょうか?

「ていうか~、ぶっちゃけ~、マジでそれ、ヤバくね?」

・・・そんな通訳、いやです!
 
 

 

(c)すがやみつる
『ゲームセンターあらし』。そんなマンガがあったのを、知っている読者の方はいるんでしょうか?

「なに、それ?」という方のために、どんなマンガかちょっと解説しましょう。主人公の少年、「あらし」くん。勉強ダメ、運動神経なし、おまけに超出っ歯。ぜんぜんイケてない彼ですが、ゲームの時には別人のように華麗に変身!天才的なセンスと超速攻撃、出っ歯までも武器に(!)目には火の玉浮かべつつ、並み居る敵を次々と倒していくのです。

『小学○年生』という雑誌に連載されていました。「普段のあらし」と「ゲームのときのあらし」の比較表なんかもあったりして。たとえば、50メートル走なんかが「普段のあらし」は14秒(だったかな?とにかく遅いんです)なのに「ゲームのときのあらし」は5秒(何者!?)とか。そんな具合です。

なんでそんなことをお話したかといいますと。よく言われるんです。

「仕事のときと普段と、全然違いますよね~」

そうです。自分でもわかってはいるんです。平たく言うと、普段のわたしって、どうも「アタマ悪そう」な話し方をしているんですよね・・・。

「えーとねー、あのねー、そういえばねー、あのねー」

だから、はやく要件を言いなさい。

「えーと、えーと、あのね。あれ?なんだっけ?なんか言おうとしたんだけど、忘れちゃった」

・・・・・・。自分の知能に不安を感じます。

通訳しているときに時々、

「あ、わたし、こんなに速くしゃべれるんだ!アタマの回転が速い人みたいじゃん!こんなに語彙もあったのね~」

しみじみと感慨にふけります。

通訳者になる前は、仕事のときと普段でこんなに差がなかったはずなんですが・・・。通訳を続けた結果、仕事中の無理がたたって、普段のペースが必要以上にスローダウンしてしまったんじゃないかと思うのです。

文章を読んで「マリコ」をご想像いただくと、どうやらみなさん「機関銃のようにしゃべりまくる、押しの強い女」を想像されるようなんですが・・・。

実際のマリコはのんびり・・・を通り越して、ボーっとしているのです。
 
 

 

TOEICに挑戦してみようと、予想問題集を購入したわたし。

問題集の1回目を、指定された時間通りに解いてみました。CDがついていて、リスニングテストもあるやつです。

結果・・・900点。

いや、あせりました。ほかの仕事ならこれで十分ですが、通訳でこれはかなりかっこ悪いです・・・。きゅうひゃくてん。若葉マークものです。

どうしてそんな点数になったかというと、TOEICの問題って、わかる人にはとっても気が散っちゃう問題なんですよね。

えー、ヘンな選択肢!おもしろーい!

笑うとこでもないのにウケてたり。

あ、そうか。これはここで引っ掛けようとしているわけね

出題意図を考えちゃったり。いかに気が散らないようにするかの練習が必要でした。

問題集をやってみていろいろと発見もあったんです。たとえば、「女性の上司に男性の秘書」っていう設定で問題が作られていたりすると、わからないんですよね。外資系企業で働いていると、「男性の上司に女性の秘書」っていうパターンがどうしても多いので、その想定で取り組んでしまうんです。意外とジェンダー・バイアスみたいなものができている自分に気がつきました。

予想問題集の残りで「気を散らさない練習」をして、迎えた本番。

ところが、ここにきて「書き込みをしてはいけない」という指示が。解答用紙だけかと思ったら、問題用紙にも書き込んじゃいけないんですね。知りませんでした・・・。通訳だと、「いかに書き込めるか?」っていうくらい書き込みまくっているので、なんだかとても落ち着きません。手がそわそわしちゃいます。「そんなこと、いま言われても~」という気分です。

落ち着かないながらも、笑いのツボをつかれて耐えながらも、何とか無事終了。そして後日、結果がわたしの手元に。

965点、だそうです。

はたして、通訳としてのメンツは保てたんでしょうか?なんだかどうツッコミを入れていいのかよくわからない微妙な点数です。思いっきり高いか低いかすれば、もっとネタとしておもしろいのに・・・と、そんな理由で残念がっていたんですが。

まあ、あんまり笑わないで頑張れたからよしとしています。だって、問題集を最初にやったときは900点だったんですから。65点分も笑わずに耐えたってことでしょう?

あの・・・ダメかしら?

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プロフィール

寺田真理子

寺田 真理子さん
幼少時から中学までを、メキシコ、コロンビア、ベネズエラにて過ごす。東京大学法学部卒業後、国際会議コーディネーターを経て、通翻訳者デビュー。その後、数社にてインハウス通翻訳を経験し、2004年にフリーランス通翻訳者として独立。出版翻訳も手がける。