HOME > 通訳 > マリコがゆく 第36回〜第40回

マリコがゆく
覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!
 
 

 

「その通訳さんは、TOEICだと何点くらいなんですか?」

コーディネーターとして通訳者を派遣していたころ、お客さまからよくこんな質問を受けました。

通訳者のスキルはTOEICで測れるものじゃないし、TOEICでいくら点数がよくても、それは通訳としては初歩に過ぎないんですよ」などと説明しても、なかなか納得してもらえなくて苦労しました。

まさか、「ほら、『ドラゴンボール』で『スカウター』ってあるでしょ?相手の強さ見るやつ。めっちゃ強くてスカウターで測りきれなくなると、『ボン!!』って爆発しちゃうじゃん!?あんな感じよー」とも言えないですし・・・。

実際、通訳者を判断する基準としては通訳歴を見るんですよね。どういう分野で、どんな通訳をしてきたのか。それに加えて、エージェントに登録するときには実際に通訳テストを受けて判断されるので、資格が問題になることはまずありません。

でも、これはあくまでも通訳者を使い慣れているエージェントの話。通訳に縁のない人にとっては、確かにわかりづらいところ。TOEICという絶対的なものさしが頭にあって、それでしか測れないのも仕方ないことかもしれません。

かくいうわたしは、TOEICって、2年ほど前まで受けたことがありませんでした。通訳を始めた当時、まだどちらかというと英検がメジャーで、TOEICはいわば「新参者」。「英検1級持ってるし、いまさらTOEICなんて受けることもないだろう」という感覚だったのです。受けてヘンな点数とったら、かっこ悪いですし。(後者が重要です!)ところが、いつの間にやら英検はすっかり押しやられ、TOEICが王道に。

一般の人にTOEICというものさししかないなら、そのものさしでわかるように示してあげるほうが親切だよね」・・・なんていうのは建前で、どんなものか受けてみたかったわたしです。だって、ネタとして面白そうでしょ?(すいません、そんな基準で生きてます!)

でも、いくら初挑戦といっても、通訳という立場上、あまりにお粗末な点数をとるわけにいかないですよね。というわけで、どんな問題が出るかも知らないわたしは、まず問題集を買うところから始めたのでした。
 
 

「右足はいいんですけど、左足がきついみたいです。もう1サイズ大きいのはありますか?」

「この形、いいですね。他の色もありますか?」

わたしが通訳をするのは、仕事のときばかりじゃありません。プライベートでも、母と海外旅行に行ったりすると、専属通訳として買い物のお供をします。

「なんだかこれじゃ、仕事に来てるみたいな気がする・・・」

そう思っても、お店の外に出た途端にそんな考えは吹っ飛びます。なにしろ、わたしは超方向音痴。駅から5分のところを30分以上迷った挙句、地図をぐるぐる回してパニックになり、挙句の果てに半泣きでタクシーをつかまえて無理やり連れて行ってもらうツワモノです。

運転手さん:「これ、すぐそこですよ」

マリコ:「わかってます!でも辿り着けないんです!頼むから連れて行ってください!!

そんな会話が何度交わされたことか・・・。

そんなわたしが、海外をひとりで歩けるわけがありません。地図をもらっても読めないので、母の道案内に嬉々としてついていきます。そして別のお店へ・・・。

「これ、デザインはいいんですけど、サイズが大きすぎて残念ね」

「たしかにきれいだけど、ちょっと派手過ぎるみたい」

なんではるばるこんなところに来てまでわたしは仕事を・・・と思い始めたころ、お店の外へ。方向音痴を自覚し、また嬉々として道案内に従い、別のお店へ・・・以下リピートです。

でも、それだけじゃありません。ホテルの受付なんかで話が通じない日本人がいたりすると、頼まれもしないのに勝手に割り込んでいきなり通訳し始めます。

「あ、お困りですか?よろしかったら通訳しましょうか?」

普段は重い腰が動きます。そして、お返事をいただかなくても、通訳してしまいます。

「受付のこの方、○○さんていうお名前だそうですよ。あ、一緒に撮ったお写真を送りたいんですね。じゃあ、メールアドレスを書いていただきましょう。あ、あなたのお名前もお教えしといたほうがいいですよ。紙とペンありますよ、どうぞ」

仕切った挙句、「良いことをした」と満足します。

結局、通訳したかったんですね・・・。
 
 

通訳者のみなさん、お仕事ではどんなペンを使っていますか?

通訳のペンというと、立派なものを想像される方も多いようです。

「ペンも通訳の商売道具だから、やっぱりいいのを使っているんじゃない?モンブランとか、そういうの?」

そんなふうに思われたりもしているようですが、実際はそんなこともありません。もちろん、中には「こだわりのマイペン」をお使いの通訳さんもいるかもしれませんが・・・。お客さまの前で、優雅な小道具を使って通訳を務めたい気持ちもあるものの、わたしは結局「そんじょそこらのペン」を使ってしまいます。

優雅なペンだと、重い物が多いんですよね。逐次通訳で長時間になると、手のほうもかなり疲れてしまいます。負担をかけない軽いペンとなると、やっぱり100円ボールペンみたいなものになってしまいますよね。あとは、グリップが使いやすくデザインされたものとか。

それに、インクもすごい勢いでなくなっていくんです!社内通訳でミーティングが連続するときなどは、1週間に数本ペンを使い切ってしまったり。ミーティングの途中でインク切れになって、隣に座っている上司のペンを奪い取って通訳続行!なんていうことも。(上司、しばし呆然・・・。)

そんな事情で、通訳には優雅なペンよりも、やっぱり100円ボールペン

でも、通訳は「きつい、緊張する、髪振り乱すの3K」ともいわれる仕事。せめて何か、潤いがほしかったりします。ペンになごみを求めて、セサミストリートやらご当地キティちゃん、すしアザラシなどなどいつの間にかキャラクターもののペンのオンパレードに・・・。まともなペンをたまに使おうとすると探すのに一苦労という状態になっていたりして。

単発のお仕事ではさすがにやりませんが。社内通訳のときは、いくら会社のお偉いさんでも、普段一緒にお仕事をしている身からすれば「ちょっととぼけたおっちゃん」くらいにしか思っていないもの。だから、マネジメントがずらっと居並ぶ会議でも、わたしの手元には「長崎名物カステラちゃん」のペンがきらりん☆ よくやらかしておりました。

さすがにあんまり目立つのは、みんなの視線がペンに集まってやりにくいです・・・。

 
 

みなさん、ゲームは好きですか?

わたしは最近のゲーム事情が全然わかりません・・・。「世の中の進歩についていこう」とネットで無料ゲームを眺めてみたりするものの、「目がチカチカする~!」とすぐにひるみ。簡単なゲームもろくにできずにあえなく挫折。「ゲームじゃなくて、現実の人生で頑張るからいいんだもん・・・」と自分を励まします。

そんなわたしも、ゲームにはまりまくっていた時期がありました。南米に滞在していた中学生のころ、変圧器まで使ってドラクエシリーズをやっていたんです。

そんなゲームでも、性格が出るわけです。超方向音痴なわたしは、何度同じ洞窟に行っても迷子になるんで、洞窟のくわしい地図なんかを自分で描いちゃったり。攻略本をわざわざ買って書き込みしたり。レベルアップなんかも「まだやるの?」っていうくらいやっちゃうんです。とっくに最後の敵を倒せるくらいのレベルになっているのに、何度も付近をぐるぐる回ってひたすら敵を倒してレベルアップをするという・・・何が楽しいのかわかりませんが、本人は大満足。

で、何が言いたいかといいますと。120%、いや、200%準備をしておかないと気がすまない性質なんです。「予習しすぎ」と大学の頃もよく言われていましたが、当然ながら、通訳についてもそう。眉間にしわを寄せて資料とにらめっこする時間が延々続きます。何ならスーツまで着込んでリハーサルだってしちゃいます。

ただ、通訳の場合は条件が整わなくて「えいやっ!」とやってしまわないといけないことが多いもの。そのときのわたしの落ち着かない気持ちをご想像ください。「平気そうにしている」ように見られてしまうことが多いのですが、実際は落ち着かないことこの上ないのです。

こんな性格なので、大きい会議だと、当然の中でもリハーサルをしてしまいます。眠れないならまだいいんですが、眠れることは眠れるんです。ただ、夢の中で通訳をして起きるとぐったり疲れているという・・・。1回ならまだしも、5回も6回も続くと、起きたときに「こんなにやったのにまだ終わってないの!?」という気分です。

不思議なのは、夢の中でも同時通訳をしているんですよね。日本語と英語、ちゃんと両方聞こえてますもん。そんなときのアタマの中って、一体どうなってるんでしょうね?

 
 

通訳をしていると、「何が言いたいのかわからない」お客さまがよくいらっしゃいます。

日本人に多いんですが、長々と話しているのに要領を得なくて、「で、結局何が言いたいんですか?」とツッコミを入れたくなってしまうようなタイプです。

どうやら、「結論を述べてから背景事情を説明する」ことを苦手とする方が多いようです。

逆に、「背景事情を説明してから結論を述べる」という話し方になじんでいるようです。それでも、結論に到達してくれればまだいいのですが。中には延々と背景事情を説明するものの、いつまでたってもまったく結論に辿り着かない人もいて・・・。

このように通訳泣かせな人は結構いるものですが、その中でも印象深いお客さまがいらっしゃいました。システム開発関係のお仕事でご一緒することが多かったんですが、よく図の入った資料を使ったり、ボードに絵を描いたりして説明をしてくれました。視覚に訴える、わかりやすい情報を提供してくれているわけですから、それ自体はありがたいことのはずなんですが・・・その説明がすごいんです。

これがどうなるっちゅうたらこうなる、それがまたどうなるっちゅうたらこうなる、そしてまたそれがどうなるかっちゅうたら・・・

立ち上がって熱心に説明してくださるお客さま。伝えようという姿勢が素晴らしいです。

でも、それじゃ訳しようがありません・・・。

途方に暮れながらも、お客さまの指す図を見ていくと、「どうやらこういうことらしい」とわかってきます。

「このデータはサーバにあります。このデータはメインフレームに転送されて処理されます。ここはバッチ処理です。そして処理されたデータはこちらのサーバに・・・」

どうやらわたしの想像(?)は当たっていたようで、無事にミーティングは終了しました。

いくら機械で言語が処理されるようになって、将来通訳にとって代わるようになったとしても、このお客さまには絶対に生身の通訳が必要になることでしょう・・・。

 


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プロフィール

寺田真理子

寺田 真理子さん
幼少時から中学までを、メキシコ、コロンビア、ベネズエラにて過ごす。東京大学法学部卒業後、国際会議コーディネーターを経て、通翻訳者デビュー。その後、数社にてインハウス通翻訳を経験し、2004年にフリーランス通翻訳者として独立。出版翻訳も手がける。