HOME > 通訳 > マリコがゆく 第31回〜第35回

マリコがゆく
覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!
 
 

平井堅とわたしには共通点があります。さて、一体何でしょう?

わかりますか?「顔が濃い」なんて言わないでくださいね!

ちょっと難しいかしら?じゃあ、もう少しヒントを出しましょう。平井堅だけじゃなくて、鬼束ちひろとも、一青窈とも共通しています。

さあ、これでわかったでしょうか?

答えは・・・「手がよく動く」です。

鬼束ちひろや一青窈が歌っているときに、音の高さにあわせて手がかなり動いているのが気になったこと、ありませんか?平井堅の場合は、それに目元のしわまで使って音をとっている気がしてなりません。「高音を出すときには、やっぱりこのしわがないとダメなのかしら?」と考えながら見入ってしまいます。(決して平井堅が嫌いなわけじゃありませんよ!むしろ、かなり好きなほうですので、念のため。)

かくいうわたしも、通訳の途中でつい「手」が出てしまうことがよくあるんです

あの・・・「手が出る」と言っても、「通訳をしていて、わけのわからないことをいう人がいたのでぶん殴った」とか、そんなことじゃありませんよ。

自分でも通訳をしながら気づくんですが、やたらと手が動いているんです。「手話か?」っていうくらいに。なにもミュージシャンのように音の高さをとっているわけじゃないんですが・・・。自分でも気になるので抑えようと思うものの、そうなると今度は気が散って通訳のパフォーマンスのほうに影響が出てしまいます。

「通訳に影響が出るよりは、手が動いているほうがまだきっとマシよね?」

というわけで、結局は放置します。

そういえば昔、通訳ブースの中でこぶしを振り上げて熱くなっている通訳者を見て、びっくりしたことがあります。スピーカーと一体となっている、というよりスピーカーよりも盛り上がっていました。

言葉だけじゃなく、スピーカーの熱い思いを伝えようとするから、つい身振り手振りに熱が入っちゃうんですよね!・・・ということにしておきましょう。

わたしが通訳していても、手元に注目するのはやめてくださいね!めちゃくちゃやりにくいですから・・・。

 

 
 

「やっぱりこんな仕事向いてない・・・。もうたくさん、辞めたい・・・。」

そんなふうに思うことってありませんか?通訳という仕事が苦行でしかなくなってしまう時期。わたしも、ひどいときはそれこそ5分おきくらいにそんなことを考えていました。特にパフォーマンスが伸びなくて、スランプ気味のときなど。「なんでこんな仕事やってんの、わたし?」って考え込んで鬱々としていました。

それでも、続けてきた理由があるとしたら、やっぱり「イタコ」の瞬間があるからかなあと思います。

普段通訳をするときは、「言語」を理解して「言語」に置き換えている感じなんです。でも、そうじゃなくてスピーカーの「脳」からこちらの「脳」にダイレクトに伝わってくるときがあるんです。脳がシンクロしているというか、こう、「降りてくる」っていう感じなんですよ。

そういうときは、「わたしって、こんなに語彙の豊かな人間だったの?」って自分でびっくりするくらいパフォーマンスが違います。何かにとりつかれて話している感覚です。メモをとる手も勝手に動くような。まさに霊媒、イタコの領域です。

ただ、残念なことに、そんな瞬間は本当に数えるほどしかないんですよね。『デブラ・ウィンガーを探して』という映画で、ジェーン・フォンダもこういう「瞬間」のことを語っていました。彼女の言う「瞬間」はまたちょっと質が違って、撮影のスタッフやセットなどすべてのものと自分のそのときの芝居がうまく組み合わさって、言い表せないような気分を体験できるという話でした。だけど、それまで50本近い映画で数え切れないほどのシーンを撮影しても、そういう瞬間はやっぱり、8回くらいしかなかったそうです。

たとえ数えるほどしかなくても・・・別の次元に飛び込んだような感覚を味わえるものが、もしかしたら「天職」というものなのかもしれない、と思ったりします。

通訳から転職して巫女さんになるとか。引退した通訳が恐山でイタコとして活躍するとか。そんなのもあり、でしょうか・・・?

 

 

 
 

通訳のみなさん、自宅の留守電はどんなメッセージにしていますか?

「はい、○○です。ただいま留守にしております。御用のある方は、メッセージをお残しください。折り返しご連絡差し上げます。This is ○○ speaking. Please leave your message after the tone. I'll get back to you as soon as possible.」

こんな具合に、日本語と英語の両方で留守電を設定している方が多いのでは?「英語しかわからない人がかけてくるから」というのもありますが、「ちゃんと通訳としてお仕事していますよ」という意味合いも強いかもしれませんね。

通訳エージェントでコーディネーターとして働いていたころに、よくいろんな通訳者の留守電を聞きました。たまに日本語だけしか入っていない人がいると、「この人、ホントに通訳として仕事をしてるのかしら?」なんてあやしんだものです。

女性通訳者の場合、たいていみなさん似たり寄ったりの留守電です。でも、男性通訳者には、ちょっと変わったものもあります。そもそも、「男性の通訳」自体が珍しいんですよね。通訳者の9割は女性といわれるくらいですから。

ある男性通訳者の留守電では、つながってからしばらくの間、彼のお気に入りらしきクラシック音楽が流れます。コーディネーターとして緊急手配でなんとか通訳を手配しようと勢い込んで電話をしたわたしに、容赦なく味わわされる優雅なひととき。ひとしきりクラシックを強制的に堪能させられた後、おもむろに流れる彼の声。「はい、○○です」。

・・・失礼ながら、普段の姿を見ているだけにクラシックとのギャップが大きすぎて、「笑っちゃいけない、笑っちゃいけない」と自分をこらえるのに必死だったのが懐かしいです。

そんなふうに、留守電ひとつでも通訳者の個性が出ていて、コーディネーター時代はいろいろと楽しませてもらったものです。携帯が普及していない時代だったので、通訳者も仕事の合間によく自宅に電話をして留守電チェックをしていました。電話のある場所をきちんと確認しておくのがコーディネーターの仕事のひとつでもあったんですよ。

最近では、エージェントさんがメッセージを残すのも自宅ではなくて携帯ばかり。留守電チェックのひそかな楽しみを味わえないのは、ちょっともったいない気もします。

 
 

社内通訳の場合、会社の中でも地位のある「えらい人」の通訳をすることが多いものです。「えらい人」なら、それにふさわしい発言をしてくれると期待したいところですよね。人生や経営、会社の方向性・・・示唆に富んだ含蓄のある言葉を聞きたいところ。

だけど、実際には「えらい人」がまともな発言をしてくれるとは限りません。ときには、あまりにもバカなことを言うので、「まさかこんなバカなことを言うはずがないだろう」と思って聴いているから理解できない・・・なんてこともあります。

そんなときでも、矢面に立つのは通訳をするわたし聞き手も英語がわかる人なら、

「ああ、あいつはバカなことを言ってるな。あれを通訳するのも気の毒だよな」

なんて思ってくれるかもしれません。だけど、英語がわからない人だったら、

「いくらなんでもこんなバカなことを言うはずないよな。きっと通訳が間違えたんだ

なんて思われかねません

「なんでそんなバカなこと言うのよ!これじゃわたしがバカだと思われるじゃないのー!はずかしいからやめてよー!!」

そう叫びだしたくなるときもよくあります。

スピーカーが外国人上司、聞き手は英語がわからない日本人の部下たち・・・という状況でそういうことがよくあります。

「このおバカさん丸出しな発言を、上に立つ人にふさわしい、重みのある発言に一体どうやったら変換できるんだろう?」

通訳中も気が気じゃありません。真摯なまなざしで見つめる部下たちを前に、小学生の作文のような発言をされた日にはもう冷や汗もの。しかつめらしく、堅苦しい四字熟語などを織り交ぜてなんとか重厚さを演出してみたり。通訳以外の編集・美化作業に要する労力のほうがはるかに大きい気がします。

大幅な編集作業が必要なスピーカーが続いて、たまにまともな発言をしてくれる人に会うと、

「通訳だけすればいいって、なんてラクなんだろう!」

そう思えて感動します。

いいんだか、悪いんだか・・・。

 
 

通訳に向いているのって、どんな人だと思いますか?

語学力が優れている人?コミュニケーション能力が高い人?勉強が好きな人?

いえいえ、ホントはそんなことではありません。自らの体験に基づいて開発した通訳適性検査をここでお披露目しましょう。みなさん、ぜひお試しを!

1.重い荷物を持つのには慣れている。

大量の資料や七つ道具と呼ばれるものを持ち歩かなきゃいけないんですから、当然いつも大荷物。以前、通訳コーディネーターだった頃、はじめて通訳と待ち合わせる際に「大きい荷物を持っている人がいたら通訳だと思え」と先輩に教わったほどです。

2.人前で平然とウソがつける。

ウソだと自分で気付いていないことも多々あったりしますが・・・。何事にも、とりわけ自分の失態に動じない姿勢が大切です。

3.人間扱いされなくてもめげない。

機材扱いなんのその。罵声叱責なんのその。そんなことではめげません。

4.自分のミスはすぐに忘れる。

覚えていたらきっと生きていけません・・・。

5.瞬間的な記憶力はあるほうだ。

訳し終わった途端にすべて忘却してもいいのです。

6.せっぱつまると作り話ができるほどクリエイティブ。

わからなくてもその場を取り繕っていかなきゃいけませんから。そんなことをしても、終わってからいい仕事をしたかのような錯覚が生じるようになってくればかなりのツワモノです。

7.話をしながらでもしっかり食事は平らげる。

「ごはん通訳」も必修科目ですね。

8.おしゃべりだが、秘密は守れる。

早口なのは役立つけれど、仕事柄機密情報に接することが多いので、うっかりお客さまのことまでしゃべったりしたら大変です。

9.目は悪いが耳はいい。

目からの情報も大きいので、目もいいに越したことはないですが。

10.甘いもの、特にチョコが好きだ。

糖分補給は大切です!

10項目に見事に該当してしまうあなた。通訳があなたの天職です!

すでにデビューしているあなた。運命だと思って受け入れましょう。デビューがまだのあなた。一刻も早く転職を!

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プロフィール

寺田真理子

寺田 真理子さん
幼少時から中学までを、メキシコ、コロンビア、ベネズエラにて過ごす。東京大学法学部卒業後、国際会議コーディネーターを経て、通翻訳者デビュー。その後、数社にてインハウス通翻訳を経験し、2004年にフリーランス通翻訳者として独立。出版翻訳も手がける。